鬱的花言葉で1日1題・レイイス(ルピナス/ピナス・フラハイSSS

眠るのが怖いんだ、とイスファルが独り言の様にそう言った。
「うん?」
振り仰ぐと、少し困ったようにイスファルが笑う。
「夢・・・なのかな。ゼクスはそんなもの見ないって言うんだけど」
「・・・ああ、ヴァイスもそんな事言ってたな・・・」
その言葉に、俺もこの間言われたそれを思い出していた。
イスファル達は生者である俺たちとは違って夢というのは見ないらしい。
もし見ることがあったとしても、それは生きているときの残留思念か乗っ取られている時の記憶、なんだそうだ。
「で?どんな『夢』?」
「ああ。誰の声かは分からないんだけど・・・」

少し上を向いて思い出すように言う、イスファルの『夢』はこうだ。
誰か知らない男の声で『お前は死ぬべき存在だ』と言われる。
否定をすると『人殺しの癖に』と笑われる。
ならばと肯定すると四方から剣が飛び出してくる・・・。

「・・・何、殺されたい願望?」
「そんな訳ないだろ、馬鹿」
笑いながら言う俺にぶすくれながらイスファルが言う。
「けど、そんな夢見るってことはちょっとはそう思ってることなんじゃないのか?」
「・・・え・・・あー・・・」
俺の言葉にイスファルは少し考え込むように視線を落とした。
・・・なんでそこで考えちゃうかなぁ、イスファルは・・・。
「じゃあ、さ」
にこりと笑って俺はイスファルを押し倒した。
え、とイスファルが俺を見る。
「殺されてみる?俺に」
「・・・な、にを」
怯えたように見るイスファルの首に手をかけた。
「・・・冗談は、やめ・・・」
「本気だって言ったら?」
「レイ、ナス・・・?」
引きつった笑みを見せるイスファルに笑いかけてその手に力を込める。
それでも人を殺せるほどではないけど。
いつものイスファルなら・・・俺が本気じゃないってことくらい、気付けそうなものなのに、な。
「・・・う、ぁ・・・」
ひゅう、と気管が音をたてた。
無意識なのか、俺の服を掴むイスファル。
弱々しいそれは振り払えるものだったけれど、俺はそのままにしておいた。
「殺して欲しかったんだろ?夢に見るほどに」
「・・・ちが、ぅ・・・」
すぅ、と綺麗な涙がイスファルの頬を伝う。
・・・なあ、お前はこんなことは望んでなかっただろ?


「・・・い、やだ」
ぽつり、とイスファルが呟く。
・・・嗚呼、お前は。
「・・・生きたい、生きたいよ、レイナス・・・!」
「うん、知ってる」


嗚咽を漏らすイスファルを抱きしめる。
志半ばで逝ってしまったイスファル。
きっともっと生きたかった筈なんだ。





あの山に咲く花に付けられた言葉の様に



もっと貪欲に生きていいんだよ?イスファル


ーー
レイイス・貪欲

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