鬱的花言葉で1日1題・がくキヨ(茜・ボカロSSS

「馬鹿なんですか何なんですか死にたいんですか」
目の前にいる可愛らしい男から酷い罵声が飛ぶ。
その頬は朱に染まっていた。
・・・ふん、意外に初心なのだな。
「口付けをしただけだろう?・・・この国では挨拶だと聞いたが」
「男同士でするものでは・・・!!」
声を荒げかけた男・・・キール・フリージスはふと口をつぐんだ。
此処が自宅だという事を思い出したらしい。
代わりに、はあ、と溜め息を吐いて何か手帳の様なものを開いた。
「・・・商談を始めましょうか?」
「ああ、そうしよう」
少し不満そうなのが面白い。
まるで野良猫のようだな、と思った。
「・・・それで?」
「分かっているだろう?我の・・・望むものは」
「勿論。・・・しかしそれ相応の物は貰う、と申し上げたはずですが?」
にこ、とキールが笑う。
目の奥が笑っていない、営業用の笑顔。
最初はそれに騙された。
そして・・・何故かこの男を手に入れたいと・・・そう願ったのだ。
勿論我が家宝・ヴェノム・ソードも欲しい。
それがこの男の元にあるならなおさらだ。
「冷たいな、キール」
「・・・馴れ馴れしくしないでください、ガスト・ヴェノム」
不服そうにするキールが面白くて手を伸ばすといとも簡単に打ち払われた。
「君は」
真っ直ぐなブラウンの眸。
「ヴェノム・ソードが欲しかったのではないのですか」
「ああ。無論だ」
そう言われ、我は目を閉じた。
初めてこの男、キールに会った時の衝撃は忘れない。

『君がガスト・ヴェノム?初めまして、キール・フリージスです』

そう、微笑む彼を美しいと思った。
・・・まあその後の誹謗中傷は散々たる物だったが・・・本人を目の前にして言うものでもないだろうに。
少し幼い顔立ちからは想像もつかなかったが娘まで居ると聞いたときは驚いた。
そして・・・その顔は幸せそうに見えて何処か寂しそうにも思えたのだ。
幸せそうな家族の一般像、それに隠れている小さな寂しさに。
我は気づいてしまった。
もしも、幸せかと聞けば不信そうな目で「何を言ってるんです?不幸せに見えますか?」と言うだろう。
・・・彼は気づいていない。
自分の、願いに。
「ヴェノム・ソードを手に入れるためだ。当主様の望む物を捧げよう」
「・・・へえ?」
目を開け、くすり、と笑う彼に近づく。
笑みを浮かべるキールの、細い腕を取って口づけた。


脳内で声がする。


その剣を取ってしまえば最後だと。


・・・お前が望む、最期だと。


「私の望む情報をくれると?・・・それとも大量の報酬?」
「・・・その・・・どちらとも違う」
媚びた目をする彼を押し倒す。
その奥の・・・寂しさをも埋めたいと・・・そう願ってしまったのだ・・・。



可愛い娘が居て、美しい妻が居て・・・幸せな家族が居る彼の


心の叫びに応えよう


「さあ、踊ろうか」

ーー
がくキヨ・私を思って・媚び・誹謗中傷・不信
*ガスト×キール

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