先生バースデー!(ボカロ・がくキヨSSS

漸く終わった仕事のファイルを保存させ、キヨテルはパソコンから目を外した。
随分遅くなってしまったようで、もう夜は更けている。
残業はするなと決められているが、校長が甘いお陰でこうして日付が跨ぐギリギリまで仕事が出来た。
自分が労働基準法に引っかからない『VOCALOID』だという事も関係しているのだろう。
「・・・その他の法律には引っかかりそうだがなぁ」
「・・・っ?!神威?!!」
ぼやく声にびくりと肩を震わせて盛大に振り返る。
そこには長い紫の髪の長身の男が立っていた。
片手を優雅に挙げるその顔は何処か得意気に見える。
「遅いから迎えに来た」
「・・・貴方、何でいつも、そう・・・」
はあ、と溜め息を吐くと「許可証をもらっている」とあっけらかんと言われてしまった。
少しこの学校の不審者対策について考えなければならないだろうな、とぼんやり思う。
「それより・・・ほら」
「?なんです?」
彼が渡してきたのは、マスターである敦の携帯電話だった。
わざわざ持ってこさせなくても、自分の方にメールなり電話なりしてくればいいのに、と首を傾げる。
「いいから」
小さく笑うがくぽを不思議に思いながら見上げそれを受け取った。
画面上には『音声メモの再生』の文字が浮かんでいる。
「・・・あの、」
言いかけたキヨテルを無視してがくぽが笑いながら勝手に決定を押した。


『・・・えーあー、キヨちゃん?マスターの俺から伝えたい言葉が・・・』
『あーっ、マスターってば一人でずるーい!』
『マスター、グミおねえちゃん、ユキも!』
『もー、マスターもねぇねも大人気ないんだから!皆で言うって言ったでしょ!』


途端、賑やかな声が聞こえてくる。
ぽかん、としていると、マスターの『あーもー、じゃあ皆で行くぞ!』という声の後、グミ、リリィ、ユキの『せーのっ』という可愛らしい声が聞こえた。

『ハッピーバースデー、キヨテル先生!!』

「・・・え・・・」
『早く帰ってきてね、先生!』
『ユキもケーキ作るの手伝ったんだよ!』
『明日の朝、皆でお祝いするからね』
『無理しないでな。明日、ユキちゃんと二人分の誕生日会すっから』
各々のコメントの、それはぷつん、と切れた。
「・・・覚えてて・・・下さったんですねぇ・・・」
小さく笑いながら、聞こえていないであろうそのケータイに向かって「有り難うございます」と呟く。
「当たり前だろう。大切なユキと・・・先生が生まれた日だからな」
背後から抱きついてきたがくぽが先程まで聞いていたそれとは逆の方に口を寄せてきた。
慌てて振り返ろうとするのを押し留められる。
「生まれてきてくれて有り難う、先生」
「・・・神威・・・」
低く囁かれる言葉に不覚にもどきりと胸が高鳴った。
「一番最初に、直接祝いたかった。・・・そう、伝えたかったのだ」
「・・・。・・・馬鹿みたいですね」
どこか子どもっぽさを滲ませて笑うがくぽに、思わずくすりと笑う。
実直な彼らしいと思った。
「でも、まあ嬉しいですよ」
「先生?」
「有り難うございます、神威」



生まれてきてくれて有り難うと、伝える君に



逢えて嬉しかったと伝えるのもまた私の誕生日

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