鬱的花言葉で1日1題2章・アルロイ(節分草/葡萄・鋼SSS

「まさか、君と酒を飲む日がこようとはな」
くすくすと目の前の彼が楽しそうに笑う。
「ええ、本当に」
僕も笑って、グラスにお酒を注いだ。
元の身体に戻って数年。
月日が経つのは早い。
「あの、大・・・あー・・・」
「大佐、でも構わんよ?」
「そういう訳にも・・・ロイさん」
悪戯っぽく言う大佐・・・じゃない、ロイさんに僕は笑ってみせる。
結構な歳なのに、ロイさんはいつまで経っても若くて可愛い。
・・・そう、昔から。
もう随分経つのにこの名で呼んでしまうのは・・・僕が『あの頃』に執着しているからなのかな。
「・・・ロイさんは」
グラスを握り締める。
カタリと中に入った氷が落ちた。
「兄さんとハボックさんのどちらが好きですか?」
「?なんだね、急に」
「答えてください」
首を傾げるロイさんに僕は俯いたままそう言う。
おかしな子だな、とロイさんが笑った。
「どちらも好きだよ。・・・もちろん君も」
「そういうのはいいんです。二人のうち、どちらを愛していますか?」
真剣に問う僕に、少しの間を置いてロイさんは口を開いた。
「・・・どちらも、大切だ」
にこりと彼が笑う。
「二人とも大切に想っている、というのはいけないことかな。エドワードもハボックも承諾している。納得はしていないかもしれないが」
小さく笑って言った、ロイさんの言葉は真実だった。
兄さんは「ホントにあの大人だけは」と文句を言いながらも妥協してる。
ハボックさんも笑いながら「そういう人だからなぁ」って言っていた。
でも、そんなのおかしい。
そんなの・・・マチガッテル。
「アルフォンス、君には理解しがたいかもしれないな」
「・・・ロイさん?」
「理解してもらわなくてもいい。ただ、そういう人もいるという事実があるということを頭の角に置いておいてほしいと、私は思っている」
ロイさんがグラスを煽る。
「・・・。・・・例えそれで、僕に理不尽な怒りをぶつけられても?」
「君がそんな事を?」
くすくすと笑って、そうだなぁと上を向いた。
「もし、そんなことがあるなら・・・私は君の全てを受け入れるだろうね」
彼が笑う。
今まで見た、どんな顔より優しく。
・・・それで、良いと思ってるんですか?
(嗚呼、何て甘い人)


宵闇が訪れる


僕の中の何かを蝕んでいく


「全てを受け入れる?聖母にでもなったつもりなんですか?」
「アル・・・フォンス・・・?」
「これだから貴方は」
きょとんとするロイさんの首を締め上げる。
「・・・ぅ、ぐっが、ぁ・・・!!」
「ねぇ、ロイさん。僕を否定して。僕を拒んで」
苦しそうに喘ぐ彼に囁いた。
白く細い腕が宙を彷徨う。
ひゅう、と気道が音を立てた。
「ほら、早く僕を拒んでください。でないと壊れちゃいますよ」
「・・・っ!」
綺麗な手を僕の腕を掴む。
「・・・め・・・や、めろっ!!!」
声が聞こえた、と思った瞬間、僕の体は突き飛ばされていた。
ほら、拒絶する事だって出来るんじゃないですか。
「もう酔ったのか?そういう酔い方は少し考え物だな」
「酔ってる?ロイさんはそう思うんですか?」
「・・・これが君の怒りか?」
「ええ」
僕はにっこり笑う。
「此処には兄さんもいない。ハボックさんもいない。・・・護衛くらいつけておけばよかったんじゃないですか?」
「・・・。・・・君程度には負けない。自信があるからね」
「そう、ですか」
挑発的に笑うロイさんに僕は静かに言った。
震えているのに何を大人ぶってるんですか?
ああ、『大佐』はそういう人でしたよね。
兄さんとよく似た性格で、ハボックさんと同じように僕を子ども扱いして。
「ふふ、あはははははは!!!!!!!!!!!」
大切な人に愛されたいと願うのは・・・貴方だけじゃない。
僕だって、同じ。
でも、ね、『大佐』。
貴方がそう呼ばれているときから貴方は僕を見てくれたことなんて一度もない。
だから。
「ねぇ、『大佐』」
ぞっとしたように僕を見るその人に僕は近づく。
「く・・・くるな!!」
悲鳴に似た声。
僕を拒絶する・・・声。
「僕と壊れてしまいましょう?」
嗤いながらロイさんの黒い髪をつかむ。
そのまま葡萄酒の瓶を口に押し込んだ。



二人が愛してくれる?


そんなの僕が許さない





そんなぬるい関係を、僕は壊して



それから・・・そう、僕だけのものにしてしまいたい





彼の漆黒の眸に僕が映る。
その顔はとても酷い顔をしていた。


ーー
アルロイ・拒絶/宵と狂気

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