オレと黒猫と夕暮散歩(ボカロSSS・レンカイ(パンロク)

好きな人が、できました。






好きな人に、振られました。


調律なんて、当の昔に忘れたピアノの上に指を滑らせる。
歪な音が部屋に響き渡った。
「・・・パンキッシュ」
がちゃりと部屋の扉が開く。
振り返ったそこにいたのはオレの好きな人。
・・・オンザロックだ。
「どうした?」
「・・・いないんだ、どこにも」
「今度は誰だ?」
憔悴しきったオンザロックを抱きしめて聞く。
シャワーを浴びた直後かそれとも雨にでも降られたか、濡れた蒼い髪は異常に冷たかった。
震えるオンザロックの背を撫でて落ち着かせる。
こいつがオレを振ってから数週間経った。
あの時の・・・明るく笑っていたオンザロックはもうどこにもいない。
常に何かに怯え、精神的に追い詰められたこいつが頼るのは・・・あの時振ったオレだけ。
なあ、皮肉なもんだろ?
「オンザロック。・・・大丈夫、大丈夫だから」
「・・・。・・・ネコ」
「ネコ?・・・ああ」
宥めすかして漸くぽつりと呟かれたそれにオレは頷いた。
ネコ、ネコサイバー。
オンザロックの家に転がり込んだノラネコ。
アイツはねぇ、オレにもなついてたから。

駆除するのは楽だったよ。

「探しに行こう。オレと、一緒に」
「レシーバーもブルームーンもいない。・・・どうして・・・!」
ガタガタとオンザロックが震える。
そりゃあそうだろう。
数週間の間に、自分と交友のあるモジュールが次々と消えたんだ。
不安にもなる。
「大丈夫。オレは消えてない。・・・そうだろ?」
「・・・ああ」
笑いかけるオレにオンザロックも無理した笑顔を見せた。
皮肉だよなぁ。
あの時自分から別れを告げたオレしか、頼るモジュールがいないなんて。
・・・オレにあんな嘘吐くからこうなるんだぜ?
別れるなんて、心にもない事言うから。
だからアンタは大切な人を失ってる。
そうだろ?
狂いだしたオレは、止まらない。
(アンタしか、止める事が出来ないんだ)


外に出るともう日が落ちかけていた。
オレンジと黒が混ざる、空の色。
この時間にオンザロックと外を歩くのはもう日課になっている。
背を向けると慌てたように腕を掴んできた。

ああ、ほら、捕まえた。

仲間もいて、食事も毎日美味しいもの食べられて、ふかふかのベットで眠っていた、そんな猫を外に放り出したらどうなると思う?
答えは簡単。
孤独にさいなまれ、食べる事も眠る事も出来ずに、死ぬんだ。
誰かが言ってたっけ。
猫は警戒心が強い生き物だから、中々手から食べてくれないよって。
だからオレは待った。
オレを信用するまで。
オレの手をとるまで、ずっと。

もう離さないよ、オンザロック。

ずっと、ずっと待ってたんだから。


ひらり、と、紫と漆黒の蝶が交差する。
縋り付くその人の手をぎゅっと握った。





好きな人が、できました。


好きな人に、振られました。



・・・好きな人を、手に入れました。


(壊れたのは、果たしてどちら?)


ーー
鬱的花言葉の続き
パンキッシュ×オンザロック!!
多分なんか、データ消去とか、そういうことが出来るんじゃないかなぁ、パンキッシュ。
・・・相変らず、パンキッシュが怖い(書いたの誰だ)

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