共闘(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠

「燭台切、後ろだ!」
「・・・っ、任せて!」
長谷部の鋭い声に光忠がふっと笑い刀を振り下ろした。
敵が断末魔を上げる。
こうして光忠と共に戦場を駆ける様になって早半年が経った。
・・・初めて彼と共同戦線を張ったのは何時だったろうか。
長谷部がこの本丸に来た日、そのすぐ後。
否。
それはもっと前。

自分たちが人の形を成す前の話。

・・・己が、まだ「長谷部国重」と呼ばれ、彼に「燭台切」の号がなかった頃の話。


彼はその昔、多くいる【光忠】のうちの一振りだった。
紫の目に虚無を映した、綺麗な少年。
国重には彼がそう見えていた。
いつも一人ぼんやり宙を見つめ、戦場に出る事もなく、だからと言って美術品だったわけでもない。
多くいる【光忠】の中でもとりわけ彼を、国重はつい目で追っていた。
・・・そんなある日。
「おい」
「・・・?」
声をかけるとふ、と光忠が此方を見る。
艶めく目が国重を捕えた。
「俺と共に戦場に出ないか」
「・・・え・・・?」
「来い」
ぽかんと見上げる彼の手を引き、城の外へ駆け出す。
こうやって主のいない中、外に出るのは初めてであった。
何故そうしようと思ったのかも分からない。
それでもただこうやって彼と地を駆けてみたかったのだ。
光忠も覚束ない足でふらふらと、それでも懸命についてくる。
「・・・あ、の・・・あの・・・!」
「・・・ん?」
「・・・貴方様、は」
綺麗な髪を乱し、おろおろと言う光忠のそれを撫でた。
「俺か。俺は・・・」
名乗ろうとし、感じた違和感に振り仰ぐ。
空気の読めないやつだと国重は口角を上げた。
「・・・。・・・話は後だ」
「え、わっ」
細い腕を引き、自身の腕の中へ招く。
人に使われている【刀】を折り、国重は走った。
「・・・あ、あの!」
「どうした、光忠!」
見上げ、ぐ、と下すよう足をばたつかせる光忠。
仕方がなく国重は足を止め、彼を下す。
「貴方様の、お名前を」
「・・・。・・・長谷部だ、長谷部国重」
「くに、しげ・・・様?」
「長谷部で良い」
そう言えばふるふると首を振った。
刀として未熟である故、そうは呼べぬのだという。
真面目だと国重は笑った。
「国重様、この光忠を使ってはくれませぬか」
「うん?」
国重を見上げる紫の目に、虚無はもうない。
刀としての本分を取り戻した、そんな目。
「俺も刀だ。刀は刀を使えない」
「・・・」
「・・・。共に戦うか?」
囁けば、光忠は伏せた顔を勢いよく上げた。
「は、い!」
「良い返事だ。・・・いくぞ、光忠!」
「はい!」
向かってくる敵に二人で対峙する。
光忠は未熟だと言っていた割に太刀筋が良かった。
次々と敵が倒れていく。
ほ、と息を吐き出す光忠の背後から飛び出す・・・最後の敵。
「光忠!」
国重の声にはっと彼が振り仰ぐ。
敵が彼を切り裂く前に国重が圧し斬った。
「油断をするな」
「・・・あ、りがとう・・・ございます・・・。・・・国重、様」
「おお。どうした」
はあはあと息を乱す光忠に目線を合わせる。
紫の目がふわりと眇められた。
おやこんな顔もするのかと国重は思う。
「この光忠目を・・・戦場に連れ出して下さり・・・感謝いたします」
深くお辞儀をする光忠を、律儀なやつだなと笑った。
ふと聞こえた烏の鳴き声に城の方へ目を向ける。
大太刀である国重と、多くいるとは言っても主のお気に入りである光忠がなくなったとあれば城は大騒ぎになるだろう。
それに先程は主がいなくても勝てたが次はどうなるか分からない。
仕方がないので帰る事にした。
「光忠よ」
「・・・。・・・はい、国重様」
「我々だけでは分が悪い。今日は城に戻る・・・が」
彼の白い頬につく紅を拭い国重は笑う。
「この次はこの俺の背中を預けよう」
国重の言葉に光忠がぱちくりと目を瞬かせた。
「それまでに強くなれ。光忠」
「・・・!」
「その時は、長谷部と呼んでくれるな?」
笑って言えば、光忠は「善処致します」と小さく呟く。
ふわりと、彼の朔月の晩に似た色の髪と国重の榛色の長い髪が風に舞った。



「長谷部君!」
彼の・・・光忠の声にはっと長谷部は刀を構える。
それを振るう前に血飛沫が眼前に舞った。
ぼんやり、あの時と逆だなと思う。
そう、あの時とは違うのだ。
弱かった光忠はこの本丸で2番目に強くなり、長谷部の背中を立派に守る「相棒」になっていた。
普段から長谷部の三歩後ろを歩く光忠は長谷部の仲間というより女房だ。
何より彼にはもう号がある。
彼は「燭台切光忠」に相応しい強さとあの時にはなかった金の眸を持ち、長谷部の背後で刀を振るう太刀だった。
「長谷部君?」
「・・・いや」
こてりと首を傾げる光忠に長谷部はふっと笑う。
彼は覚えているだろうか。
あの時誓った、共闘の約束を。
・・・長谷部を縛る、呪いの言の葉を。


『この光忠、今日の闘いを忘れません。もしも今後戦場に出られない時が来ましたらば・・・。・・・今日の様に連れ去ってくれませぬか』

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