贈り物(へし燭SSS・ワンドロお題)

贈り物には花がいいと言ったのは誰だっただろうか。
「おい、燭台切」
「ん?何だい?」
洗濯物を畳んでいる彼に声をかけるとふわりと顔を上げる。
その光忠に花束を差し出した。
鈴の様に揺れる、白い花。
「・・・これ」
光忠が金色の目を見開いた。
それからふやりと笑う。
「僕に?」
「お前の他に誰が居る」
ぶっきらぼうに答えると可笑しそうに肩を揺らし、それを受け取った。
「ふふ。長谷部君が花かぁ」
くすくすと光忠が笑う。
随分と楽しそうだった。
「・・・なんだ」
「ううん。・・・似合わないなあと思って」
笑うたびにふわふわと白い花が踊る。
「別にいいだろう」
「駄目だなんて言ってないよ。・・・すごく、格好いい」
にこと彼が笑った。
優しい言葉は長谷部をも暖かにする。
「狡いなぁ、長谷部君は」
「何がだ」
肩を揺する光忠に長谷部はぶすくれたように言ってやった。
別に?と首を傾げ、へにゃと笑う光忠。
「・・・この花、待雪草だろう?すごく綺麗」
花に顔を寄せ光忠は柔らかな笑みを浮かべた。
「でもどうしたんだい?急に」
「特に意味はない。・・・そこに咲いていたからな」
長谷部のいる本丸は今でも冬だ。
だからそれがあったのだろう。
その答えに光忠は、そっか、とまた笑った。
西洋の教会では聖燭祭、と呼ばれる日にこの花を飾るそうだ。
花言葉は希望。
彼にぴったりだと、思う。
「長谷部君はどうして待雪草が白い色をしているか、知ってるかい?」
「うん?」
花を指で揺らしながら、光忠が言った。
「雪は元々色がなかった。色が欲しいと訴えたのにそれに色を与えてくれる花は誰もいなかった。・・・そんな雪に可哀想だと色を与えたのが・・・待雪草なんだって」
金色の目を眇める。
誰にでも優しく【自分】を与えてしまうところも光忠によく似ている、と長谷部は思った。
「雪に色を与えた所為で色がなくなったのか」
「白だって立派な色だよ?」
長谷部のそれに光忠が笑う。
「すごく綺麗な色じゃないか。純粋で無垢で」
「そうか?自分がない色だろう。白と言うのは」
長谷部の答えに光忠はまた笑った。
彼は良く笑う。
凄く楽しそうだと長谷部はぼんやりと思った。
「君に贈り物をもらったの、初めてだ」
「そうか?」
「ああ。・・・ありがとう、長谷部君」
ふわ、と光忠が柔らかいそれを、長谷部を見上げて見せる。
彼の真直ぐな言葉は少しくすぐったかった。
長谷部はああ、と言って目を反らす。
「長谷部君の気持ちは嬉しいよ?・・・でも、僕の所為ですぐ涸れちゃうのは・・・可哀想だよね」
光忠が少し、ほんの少しだけ寂しげな笑みを浮かべた。
そんな顔はほんの一瞬で、すぐに「花瓶に活けてあげようか」と笑う。

色の無い花は可哀想。

手折った花は可哀想。

・・・お前に似て、可哀想。



「光忠」
「ん?なあに、長谷部く・・・」
ふわりと彼が見上げる。
ぐいと手を引き、口吸いを施した。
「ん、ん・・・。・・・ぁ・・・?」
光忠の白い肌が赤に染まる。
長谷部は口角を上に吊り上げ、崩れ落ちる光忠を見ていた。



白い花と肌が紅に染まる

それを飲み込むのは彼を包む黒だ


とても美しい、と思う





「美しいな、お前は」

ふわりと光忠の頬に手を添える




長谷部はずっとこれが見たかった

・・・だから



何度も何度だって捧げよう


・・・お前に

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