お風呂/行水(へし燭SSS・ワンドロお題)

人の身体と言うのは実に不便だ。
雨が上がった後の本丸の庭を眺めながら長谷部はぼんやりそう思う。
・・・とにかく暑いのだ。
刀の頃はそんな事はなかった。
夏の暑さも冬の寒さも感じない。
それが今はどうだ。
暑いのはまだ耐えられるとして、身体がべたべたするのはなかなかどうしようもないものがあった。
じじい共が熱さで倒れた時には無様だと思ったがこうも暑いと明日は我が身かもしれない。
「・・・へし切すっごいうざい」
「・・・。・・・なんだ、加州清光」
ぎろりと睨めば紅い服の胸元をはたはたと上下に動かしながら清光が見下ろしていた。
どうやら彼も暑いらしい。
庭では短刀たちが大きな桶を使った行水にきゃっきゃと声を上げ喜んでいた。
あれに交じる勇気はないが暑いので取り敢えず長谷部に当たっておこうということだろう。
まったく迷惑なことである。
「見てるだけで暑苦しい!脱げば?!!」
「お前に関係ないだろう」
「何それ、すっごいむかつく!!」
「ちょっとお前、長谷部さんに当たるのやめなよ」
暑苦しい、と言ったのは麦茶を持ってきた大和守安定だ。
「何、お前は暑くないの?!」
「暑いけど苛々しても余計暑いだけでしょって言ってんの!」
ぎゃーぎゃーと口論が続く。
煩い、と長谷部は耳を押さえつつ腰を上げた。
「あれ、長谷部君?」
廊下で光忠と鉢合わせる。
きょとりとした彼は白い手拭を手に持っていた。
洗濯物でも畳んでいたのかとぼんやり見れば、光忠がふと笑って長谷部の額の汗を拭く。
「暑そうだね、長谷部君。お風呂でもどうだい?」


ふわふわと笑った光忠が勧めたのは風呂は風呂でも水風呂だった。
確かにこれだと汗も引くだろう。
「僕らだって水遊びに興じてもいいと思うよ」と笑っていた彼の真意がよく分かった。
風呂で行水もありかもしれない。
「鹿角菜持ってきたよ」
「ああ、すまん」
からりと音を立て戸が開かれたかと思うと光忠が顔を出した。
それに礼を言い・・・ふと彼が服を着ているのに疑問を覚えた。
「おい、燭台切」
「?どうかしたかい?」
「お前は風呂に入らないのか」
「・・・僕は・・・いいかな」
ふわりと笑った光忠は防具や上着は着ていなかったが内番衣装でもない。
暑かろうに一寸の肌も見せていなかった。
「暑くないのか」
「え、うん。まあ・・・」
尋ねたそれに光忠は珍しく歯切れの悪い答えを返す。
それにしびれを切らし、ぐいと腕を引いた。
彼の身体が宙に浮き、水の中に飛び込んでくる。
何の音もない、二人だけの世界。
だがそれは長くは続かず、すぐに空気中へ出て二人して咳き込む羽目になった。
溺れてしまえばいい、と思う。
「・・・もう、長谷部君たまによく分からないことするよね・・・!」
涙目で睨む光忠。
白い服が肌に張り付き、妙に艶めかしい。
「・・・燭台切・・・」
手を伸ばせば途端に振り払われた。
「嫌だよ、僕は」
二人が浸かる水と然程変わらない温度で光忠が言う。
「・・・だから断ったのに」と小さく呟いて風呂から上がろうとする彼を背後から抱きしめ、再び水の中へと引きずり込んだ。
聞けば如何やら以前酔った時に風呂に落とし、そういう行為に及んだことがあるらしい。
そういえばそんな事もあったと思うが今の長谷部には知ったことではなかった。
「嫌だって・・・言ってる・・・!長谷部君!」
強い声が風呂場に響く。
張り付いたそれから見えるぷっくりとした乳首を優しく撫でると一変して光忠は甘い声を上げた。
「ひぅう!!」
ぱしゃりと水が跳ねる。
「やだ、やだ・・・ってばぁ・・・!」
ふるふると首を振る光忠の肩甲骨に口付けを落とす。
水で肌に張り付いた黒いそれを片手で脱がしながらもう一方の手で胸を弄った。
はあ、と熱い息が光忠の口から洩れる。
「ぅふあ・・・!」
前を寛げ、握りこむとびくんっと躰が跳ねた。
「・・・?!や、やだ!!ぁ、ぁう!」
ぎょっとしたような表情で振り返る光忠の肩甲骨にちうと吸いつけば綺麗な背が弓なりにしなる。
何度も何度も口付けを落とし、力が抜けたのを見計らって握っていた手を動かした。
ついでに鹿角菜を手に取り、後ろをぐにぐにと暴く。
中を開けば冷たい水が一緒に入ってきた。
「ひぃんっ、あっ、ああ゛っ・・・!」
ぱしゃぱしゃと水が跳ね、光忠の手が空を掴む。
「待って、ま・・・!」
「待たない」
悲痛な声を一蹴し、長谷部は光忠の弱いところを責めたてた。
「あ、ゃ、ああっ!!」
短い悲鳴と共に生ぬるいそれが長谷部の手に伝わる。
分離しない白い液体が水に浮いた。
「・・・イったな」
囁けば彼はかあと頬を染める。
「・・・ぁ、あ・・・」
「気持ちよかったか?」
低く囁けば、大きな水音を立てて彼が振り向いた。
「ねえ、やだって言ったよね?!」
「そうだな」
睨む彼にしれっと返し、長谷部は猛ったそれを押し付ける。
びくんっと彼の躰が跳ね、水飛沫がとんだ。
「ちょ、っと・・・ここ、お風呂だよ?」
おろおろと見る光忠の手を絡め取る。
何を今更と笑いながらぐっと腰を押し付け、途端緊張する彼の耳元に口を寄せた。
「・・・。・・・だからァ?」
「ぁ、や・・・はせっ・・・はしぇべく・・・!」
「俺は満足していない。それにお前が言ったんだぞ、光忠。・・・『水遊び』はどうか、とな」
金の目元を紅く染める彼に意地悪く言ってやる。

成程、人の躰とは実にいいものだと、長谷部はにやりと笑った。

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