軽傷/疲労(へし燭SSS・ワンドロお題)

「長谷部君さあ」
くすくすと光忠が笑いながら長谷部の頭を撫でる。
白い指が髪の間を行き来するのは気持ちよかった。
長谷部の一日はかなり忙しい。
今日は書類仕事を片付け、畑当番をこなし、出陣をした。
主命だからと割り切ってはいるが長谷部とて超人ではない。
疲れた、と思った瞬間、足が彼の方に向いていたのである。
部屋にいた光忠は驚いていたが「どうしたんだい?」と笑ったので何も言わず抱き付いたのだ。
光忠はそれが長谷部の「疲れた印」であると知っている。
だからこそ何も言わないし、受け入れてくれる光忠が長谷部は好きだった。
「疲労だったら手入れ部屋に行きなよ」
「手入れ部屋に行くよりお前の所に来た方が早い」
「・・・それって」
長谷部の言葉に光忠の手が止まる。
不思議に思い見上げれば顔を真っ赤にして固まっていた。
「・・・?おい?」
「長谷部君ってさあ・・・」
「は?」
ごにょごにょと言葉を濁す光忠。
余りそういう事はないので首を傾げれば、光忠ははあと息を吐き出した。
「長谷部君、そう言うところあるよね」
「だから、何がだ」
含んだそれに目を真直ぐに見れば「かっこいいところ!」と声を荒げた。
「・・・は?」
「天然なんだろうけど。それに付き合ってたら僕が疲労してしまうよ」
再び撫でる動きを再開しながらも光忠は文句を続ける。
「俺はそんな事は言った覚えがないが?」
「それが天然だっていうんだよ」
もう、と光忠が言う。
その顔は彼が良く言う「格好悪い顔」だ。
「なんだ、嫌なのか」
「そうじゃないけど。急にそういう事言われても、というか・・・」
「想定外、か?」
「・・・うう、もう」
光忠が軽傷を受けた時に良く言うそれに準えてにやりと笑えば彼は珍しくぶすくれる。
それが少し可愛いと思ってしまい、ああやはり疲れているのだな、と思った。



(自分の疲労を癒せるのは彼の可愛い顔と声)





「長谷部君、軽傷受けたら笑うのやめなよ?煽ってるように見えるから」
「お前だってそうだろうが。・・・お前の場合は虐めたくなるんだが」
「・・・怖い事言わないで長谷部君」

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