すれ違い(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部

ここ最近は忙しかった。
否、忙しいのはまだ良い。
主の役に立っているという証明なのだから。
「へーし切!」
「・・・。・・・なんだ」
後ろから背を叩かれ、長谷部はじろりとその人物を睨み付けた。
意外そうな表情をしてみせたのは加州清光である。
「あれ、怒んないの?」
「怒られる自覚があるならやめろ」
清光のそれにため息を吐き出した。
いつもなら何のかんのと彼には小言を言うのでそれが無いことが意外であったらしい。
しかし、長谷部とていつも人の事を気にしてはいられない、事情があった。
「なに、燭台切さんとなんかあった?」
「・・・何かあればまだ良いんだがな」
こてりと首を傾げる清光に長谷部は珍しく愚痴る。
そう、光忠とは何もないのだ。
ただの、何も。
寧ろ顔さえ見ておらず、これはわざと避けられているのではないかと勘ぐってしまっていた。
「え、会ってないの?同じ本丸なのに??」
「絶妙に時間が合わん」
驚く清光に長谷部が言う。
彼が驚くのも無理はなかった。
ここ数ヵ月は同じ隊であり、いつも行動を共にしていたからである。
最後に見かけたのは1週間前だったか。
声をかけようとした長谷部にふわりと笑って「後でね」と口の形を見た、それである。
まるで螺旋階段のようだな、と思う。
手を伸ばせば触れられるのにそれが出来ない。
「合わないなら合わせばいーんじゃないの」
「は?」
あっけらかんとした清光のそれに長谷部は彼を見下ろす。
「会うくらいなら出来るじゃん。それとも何?へし切は燭台切さん取られてもいいわけ」
「良い訳ないだろう!」
清光の言葉に思わず声を荒げた。
そうだ、会うくらいなら、出来る。
舌打ちをし、長谷部は駆け出した。
がんばれーという心にもない声を聞きながら。



漸く探し当てた彼は、長谷部が一番忌々しく思っている相手と共にいた。
「光忠」
「やめてください、国重さん」
光忠が困った顔をする相手、長谷部と同じ声で彼を呼ぶのは大太刀の長谷部国重である。
「彼奴は遠征だろう」
「そうです、けど」
何を言われているのか心底困った表情で。
いつものように体よく追い返せば良いのに、と思う。
怒鳴り込もうとしたその時、光忠は綺麗な笑みを浮かべ、国重を見上げた。
「僕は長谷部くんを待ってます」
「ほう」
可笑しそうに国重が笑う。
「・・・そういうことだ」
「長谷部くん?!」
驚く光忠を引き寄せて睨み付けた。
「はは、すれ違っている間に喰ろうてしまおうと思ったのだが」
「・・・?!貴様!」
から、と笑い激昂しかける長谷部と光忠を置き去りに国重は踵を返す。
「別離は寂しいだろうに」と、そう言い置いて。

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