藤/紅葉(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠

ずるずると黒い着流しを引きずった少年が書物を抱え乍ら廊下を歩いていた。
「長船の子よ」
「・・・?・・・国重様!」
ふわ、と振り向いた彼が嬉しそうに顔を綻ばせた。
長船の一振り、光忠のうちの一人。
初めて見た時は綺麗なお人形と言った風貌だったが今ではころころと表情も変わり国重の目を楽しませる。
「何処へ行く」
「藤を見に行くのです」
「藤か」
「はい。・・・国重様の目の色と似ていると聞きました」
目を覗き込み、光忠が笑った。
「そうだな」
「やはりそうなのですか!」
肯定を返すと嬉しそうに光忠が言う。
「光忠目は幸せ者ですね。遠くへ行かなくても藤が見れるのですから」
「ならわざわざ見に行かずとも此処に居れば良い」
嬉しそうに顔を綻ばせる彼にそう言って、書物を抱えた光忠ごと抱き上げる。
「わ」
「俺の元に来い、光忠」
驚く光忠の耳元に囁いた。
遠くで藤の花が風に舞う。
ひらひらと、季節は違えど舞い落ちる、紅葉の様に。

それは静かに思い出となって、風に消える。


「長谷部君?」
目の前で首を傾げる・・・あの時の少年。
尤も今はすっかり青年になってはいたが。
「いや・・・。燭台切、お前が紅葉のようだと思ってな」
「え??」
きょとんと光忠が目を瞬かせる。
赤や黄色に踊る木の葉。
その花言葉は「美しい変化」
藤色の目をしていた彼は美しい金へと変貌を遂げた。
はらはらと紅葉が舞う。
「僕は赤なんて纏っていないけど」
「いや、似ている」
不思議そうな彼にきっぱりと言って見せた。
赤なんて纏っていなくても彼は紅葉そのものだと、長谷部は思う。
「じゃあ藤は長谷部君かな」
「は?」
くすくすと笑う光忠に今度は長谷部が目を丸くさせた。
「藤は忠実な、という意味がある。・・・そう君が教えてくれたんじゃないか」
小さく彼が笑う。
そう言えばそんな話をしたこともあったなと思う長谷部の前で落ち葉が風に舞い上がった。
くるくると風に回る赤や黄色。
まるで焔のように彼を包むそれと共に、光忠が消えてしまう気がして・・・思わず彼の腕を掴む。
「えっ」
「・・・何処にも、行くな」
長谷部の言葉に目を見開いていた彼のそれがふわりと眇められた。
「・・・行かないよ」
光忠が笑む。
思い出の中の彼と少し似ている気が、した。


彼は知らない。
藤の花言葉に「決して離れない」そして「恋に酔う」という意味があるのを。

恋に酔った男の執着心をただ知らず、紅葉ははらりと宙を舞う。

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