へしにょ燭

俺は長谷部国重。
今年からとある高校に勤務となった。
仕事は充実している・・・と思う。
・・・ある、一点を除いては。
「ねーー聞いてる?」
「なんだ、長船」
頬杖をついてぶすくれた顔をするこの女学生、名を長船光忠。
普段は人当たりもよく教師からの評判も良い。
男子からも人気な女子と言うのは他の女子からは僻まれるものだがこいつはそうでもないらしかった。
「もう、ぜんっぜん聞いてない!」
「お前の話中身ないだろうが」
「長谷部くんほっんと嫌い、大嫌い。しねば良いのに」
心底嫌そうな顔で光忠が言う。
彼女はどうしてか俺の事が嫌いらしい。
・・・昔は、そうでもなかったんだが。
「はいはい。後、長谷部くんじゃなくて先生な」
「長谷部くんなんか長谷部くんで充分だよ!」
頬を膨らませる光忠。
豊満な胸がたゆんと揺れる。
光忠は所謂幼馴染と言う奴で、昔は「国重兄様」なんてにこにこ笑ってついてきていた・・・が、いつの頃からか俺を避け始め、現在の「長谷部くん大嫌い早くしんで」になった。
理由を聞けば「何で分かんないの?!長谷部くんのばーか!」と言われその態度に苛々するので聞かない様にしているが。
「そういえば、体重測定無様だったらしいな?」
「・・・。・・・長谷部くんそれセクハラ」
光忠が嫌そうな顔を作る。
何時もしている事だろう、と思いつつ手を伸ばした。
「要らん脂肪が多いんじゃないか?」
「ほっんとしんで!!!」
むにむにと揉みしだくと顔を真っ赤にさせて手をはたかれる。
可憐そうに見えて彼女は腕力が男子を抜いてトップだということを忘れていた。
・・・言えば怒られるからあまり言わんが。
「何をする、犯すぞ」
「長谷部くん、何かあると犯すしか言わないよね」
少し距離を取って彼女がそんな事を言う。
「お前が生意気なのが悪いんだろうが。後、先生と呼べとお前は何度言ったら」
「犯したいなら犯してみれば良いのに〜」
けらけらと彼女が笑う。
「・・・ほう?」
にやりと笑って立ち上がった。
先程と変わって機嫌の良い光忠の顎を救い上げる。
・・・煽っているのだろうか。
「へ?」
ぽかんとする彼女に触れるだけのフレンチキスを一つ。
「これ以上されたくなければ帰れ」
耳元で囁いて離れると呆然と見上げていたが、ぷるぷると震え出した。
真っ赤になりがたんっと音を立てて立ち上がる。
「長谷部くんのばかー!」
外まで響く声で光忠が怒鳴り、バタバタと体育教官室から出て行った。
・・・少しやり過ぎただろうか。
ゆるむ顔を押さえ、俺は書類に向き直る。

・・・俺たちの事を、誰かが見ていたとは・・・知らずに。

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