黒田サンド

「日の本一の槍こと、日本号。只今推参」
ぶわりと桜が舞った。
目の前の部隊に向かってにやりと笑いかける。
「あんた、俺が来るまで何杯飲んだんだ?」
呆れた顔をする面々の中で一人、くすりと笑う美人が、いた。
「初めまして、日本号さん。僕は燭台切光忠。この部隊の隊長です。・・・僕はお酒強くないんだけど・・・本丸にはお酒強い人もいるから、楽しめると思いますよ」
「ほお、そうかい」
ふわりと金の目が眇められる。
差し出された手を握って、俺は笑った。
・・・へえ、この時代も中々楽しめそうだな。


美人こと燭台切光忠は刀としての実力もさることながら、どうやら器量も気立ても良い刀らしい。
「これどうぞ」
「お、わりぃな」
「いえいえ」
おつまみを一品皿に乗せてそれを差し出す燭台切に言うとやつはにこにこと笑った。
「お前さんもどうだ、一杯」
「・・・う〜ん、僕は、止められてるから・・・」
杯を持ち上げればやつは困った笑顔で言う。
ふぅん?
実践に支障が出るとかかね。
それを聞けば「みっともない顔するから駄目だって、長谷部君が」と言った。
長谷部くん?
「そういやぁ此処にはへし切長谷部もいるんだったか」
「はい。今は遠征に行ってますけど」
立ち去ろうとした燭台切に言えばやつはにこと笑ってそう答えた。
へえ、黒田のお坊ちゃまもここじゃあきっちりしてるって訳か。
「お先に失礼しますね。日本号さんも早く休んでください」
「あァ」
ふわりと笑う燭台切に手を振る。
数時間、月を見ながらちびりちびりと酒を嗜み、本丸から声が聞こえなくなった頃、漸く俺はふらりと立ち上がった。
向かうは自分にと割り当てられた部屋・・・ではなく。
から、と襖を開けた。
すやすやと寝息を立てる燭台切に覆い被さる。
一目見た瞬間、こいつを欲しいと思った。
綺麗な刀。
長船工が作り出した光忠の一振り。
白い鎖骨に口を寄せ・・・痕を付ける。
途端、ふわりと金と藤の目が開いた。
ぼんやりとしたそれに笑いかけようとしたところで。
「・・・長谷部、くん・・・?」
とろんとした声で問いかけられるそれ。
図らずも知ってしまった、事実。

・・・ああ、この可愛いのアイツのか。

「残念ながら長谷部じゃ、ねえなあ?」
「・・・?!!日本号さん?!」
「おう、悪い。部屋が何処か分からなくなった」
がばりと身を起こす燭台切にしれっとそう言うとやつは「槍部屋は反対方向ですよ」と笑って見せた。
「そうか。悪いなあ、起こして」
「いえ。・・・おやすみなさい」
にこと笑う燭台切は言外に「出て行ってくれ」と言っているようで。
俺も小さく笑い、部屋を出る。
己の部屋に戻り、布団に入ったところで廊下の方から声が聞こえた。
『ちょ、っと・・・!痛いってば、ねえ、長谷部くん!』
『煩い。この痕を付けたのが何処のどいつかは知らんが・・・徹底的に躰に聞いてやる・・・!』
『違うっ、これは、あの、日本号さんが・・・!』
『・・・日本号?・・・ますます躰に聞く必要があるな?光忠ァ?』
『ひっ、ちょ、やだって、長谷部くん・・・!!』
聞こえるそれにくつくつと笑う。
・・・あの黒田のお坊ちゃんも、所詮は織田の刀だったって訳か。

なあ長谷部よ。



ちょっとくらい俺に貸してくれたっていいじゃねぇか、なあ?

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