ファンタジー(へし燭SSS・ワンドロお題)*クロスオーバー

戦況は切迫していた。
最初はいつもの魔獣退治だった・・・はずなのに。
突如黒い靄が現れ、レイナスとロナードを飲み込んだ。
「ロナード!くそ、『バーニングコンボ』!」
「レイナスさん!・・・詠唱破棄、『バルザライザー』!」
「レイナス!ロナード!!・・・きゃああ!!」
必殺技や攻撃魔法を仕掛けるも間に合わず、白い光が辺りを包む。
「は?」
「え?」
閃光が消えた後、そこにいたのはレイナスとロナード・・・ではなく。
レイナスに良く似た榛色の髪の青年と、ロナードに良く似た黒髪の青年であった。
「おい、燭台切これはなんだ!」
「僕に聞かれても分かるわけないだろ?!大体部隊長は君じゃないか!」
「俺が知っている訳がなかろう!」
「・・・あのぅ」
ぎゃんぎゃんと言い合う二人に声をかけたのはラナである。
「ここはクラウディア、空の上よ」
「もっと言やぁ船の中だな」
「そ、空?」
「船?」
ザードのそれにぽかんと二人が言う。
どうやら言葉は通じそうだ。
それにほっとしたのか、ラナがきょろきょろと辺りを見回す。
「レイナスとロナード何処行っちゃったんだろ?」
「まあ、あれですね」
それに、甲板からどす黒い靄を指差してにっこりと笑うヴァイス。
「エアゲートが開いたんでしょう」
「エアゲート便利だな?!」
ヴァイスのそれにザードが突っ込む。
冗談ですと笑うヴァイスに二人はぽかんとしきりだ。
「冗談かよ。あ、おれはザード!」
「あたし、ラナ!よろしくね!」
「私はヴァイス。ヴァイス=ランドシーカーです。それで、貴方たちは?」
にこと笑うと慌てたように黒髪の青年が話し出した。
「ええと僕らは刀の付喪神でね・・・」
「刀?剣とは違うの?」
黒髪の青年が言うそれにラナがきょとりとする。
「まあ厳密には違いますね。武器には違いありませんが」
ヴァイスは答えながら武器を扱った書物のページを開いた。
覗き込み、ラナとザードがああと言う。
「ライの武器がそんなだったねー」
「あーそういやぁそうだったな」
「ライ?」
ラナとザードのやり取りにきょとんとする黒い髪の青年。
それに、ああとヴァイスが笑う。
「ロナードさんの従姉・・・とだけ言っておきましょうか」
その答えに榛色の髪の青年は少し表情を歪めた。
「あたしにもお姉ちゃんがいるんだよ!名前はニア、後で紹介するね!」
「そうなんだ、楽しみにしてる」
ラナのそれに、にこ、と黒髪の青年が笑う。
なるほど、ロナードとは違って表情は豊からしい。
「ね、長谷部くん」
「あまり興味は無いんだがな」
「もう、またそんな・・・」
振り返った彼は、榛色の髪の青年の口振りにくすくすと笑った。
榛色の髪の青年はレイナスより無愛想のようだ。
「自己紹介がまだだったね。僕は燭台切光忠。こっちは・・・」
「・・・へし切長谷部、だ」
自己紹介をする二人。
どう見ても性格はレイナス、ロナードには似ていない。
しかし、この既視感はなんだろうかとヴァイスは首を傾げた。
彼らの説明によれば、彼らは人ではなく、武器そのものらしい。
別の世界では武器には神がやどり、それを具現化して戦う、そんな戦闘方法があるようだ。
戦闘にいくにはこちらでいうワープを使うらしく、どうやらその時に起きた誤作動とこちらの何かが奇跡にかち合ったらしかった。
ヴァイスの考えが正しければ、レイナスとロナードは彼らの世界にいるのだろう。
あまりその辺は心配もしていないのだけれど。
「わっ」
ぐら、とエアシップの揺れと共に黒髪の青年こと光忠の体が揺れる。
それを支えたのは榛色の髪の青年、長谷部だ。
「ありがとう、長谷部くん」
「構わん、転けるなよ」
「そんな無様なことしないよ」
「どうだか」
二人のやり取りにヴァイスはおや、と笑う。
なるほど既視感はこれか、と。
ふ、と頭上が暗くなる。
見上げれば巨大な魔獣がこちらに標準を合わせていた。
どうやらこれが大元のボスのようだ。
「出やがったな。おい、あんたら、ちょっと後ろに下がってー・・・」
「・・・。・・・これは物理攻撃は通るのか?」
敵を睨み、声を掛けようとしたザードを遮って長谷部が問う。
「え?うん、まあそりゃあ」
「なるほど。行くぞ、燭台切」
「はいはい、ご指名かな?じゃあ期待には応えないとね」
刀を抜いてにやりと笑う長谷部に、光忠もくすと笑って大きな刀を抜いた。
「圧し切る!!」
「格好良く決めたいよね!」
それぞれが駆け、魔獣に刀を振り下ろす。
「・・・おお」
その様子をぽかんと見つめるザードとラナにまたヴァイスがおやと笑った。
先に我に返ったのはラナの方で、怪我をする彼らに声を掛けようとする。
が、耳も貸さず戦い続ける彼らに、ラナは次第にふるふると震え出し。
「・・・。・・・『星屑の、怒り』っっっ!!!!!」
閃光が降り注ぎ、魔獣は塵と消えた。
「は?」
「え?」
二人が振り向く。
恐らくその目に映るはわなわなと震える少女の姿。
「・・・おい?」
「え、えと、ラナ、ちゃん?」
「・・・あたしの話を聞けぇええ!!!」
「おま、ちょ、それ色んな意味で危ないから!落ち着け、ラナ!!」
再び大技を繰り出そうとするラナをザードが必死で止める。
それを避けつつヴァイスは甲板の扉に手を掛けた。
引きつった顔で、少女の攻撃を避ける二人に心の中で手を合わせる。
「もうすぐ我々の拠点に着きますよ」
恐らくたぶん聞こえていないだろう彼らに声をかけ、ヴァイスは無線を手に取った。
現情報を報告すべく。





「・・・どうすんの、あれ」
ザードが呆れたように言った。
光忠はラナやニアと厨房だし、長谷部はライに連れられてカイゼルシュルト軍の指揮に行くらしい。
レイナスとロナードがいなくなったことは確かに事案だけれども、代わりに彼らがいるから何とか誤魔化されるだろうということになった。
仲間が誰も二人を受け入れない、と言わなかったことも大きい。
特に混乱もなく受け入れるから果たして自分たちのパーティーは以前からこうだったろうかと思ってしまうほどだ。
長谷部は好戦的なようで、レイナスより統率の取れた軍になるのではないかとヴァイスは思っていた。
光忠は光忠でよく食事番を任されていたらしいのでこちらも適任ではないかと思う。
実際、見知らぬ土地の作物だろうに作ってくれた料理は絶品だった。
「まあいいんじゃないですか?」
くすくすとヴァイスが笑う。
見つめるのは『彼ら』によく似た二人だ。
「そりゃあやることは変わらんけどさぁ」
「いえ、そうではなく」
「は?」
きょとんとするザードにヴァイスはまた笑った。


「私たちもきっと彼らも・・・『ファンタジー』の一部でしかありませんからね」


ヴァイスの声は風に溶ける。
レイナスとロナードに似た、長谷部と光忠は確かに彼らとそっくりだった。
長谷部と光忠がレイナスとロナードの武器を具現化したものだといっても信じてしまうくらいには。

性格より容姿より、何よりそれはファンタジー(非現実)



(そもそも、同性同士の恋がファンタジー(妄想)でしかないじゃないか!)

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