初雪(へし燭SSS・ワンドロお題)

「雪でも降ればいいのにな」
「え?」
ぽつりと言ったそれに書類整理をしていた光忠が振り向き、首を傾げた。
それからくすくすと笑う。
「・・・。・・・なんだ」
「だって、長谷部君がそんな事言うとは思わなくて」
ふわふわ笑う光忠は続けて「長谷部くん、寒いの嫌いでしょう」と人差し指を立てる。
「ああ。この寒いのならまだ夏の暑さの方が耐えれるな」
「ね?」
「それはお前もそうだろう、燭台切」
「まあそうだけど」
長谷部のそれに光忠はうーんと曖昧な笑みを浮かべて小首を傾げる。
「僕は寒いのも暑いのも普通だけど・・・。・・・まあ暑がりよりは寒がりになるのかな?」
「お前が暑がりなら此処に居る大半は暑がりだ」
あっさりと言う長谷部に光忠はまたくすくすと笑った。
「大体、雪などと言うものは冷たいだけで良い事は何もないだろう。短刀が良く遊んでいたが何が楽しいのかが分からん」
嫌な顔をする長谷部のその言い様に「だよねえ?」と首を傾げる。
「それで、雪が嫌いな割にどうしてその雪が降って欲しいんだい?長谷部くんは」
光忠が書類整理の手を止めてそう問うた。
雪を綺麗だとは思わない。
あんなもの、空気中の芥や塵の塊だ。
それでも。
白いそれが空から舞い降りる様子は、こと、初めて地上に堕ちるそれは美しいと思うのだ。
雪は美しいと誰かが言った。
何故ならそれは白いからだと。
白が美しいと、誰が決めただろう。
白ほど汚い色はないのに。
唯一つ決まっているのは。
・・・白は全てを覆い隠すことが出来る。
黒を、そして赤を隠してしまえるのは白だけだ。

彼が纏う黒を、そうして彼に流れる赤を。

皆に愛される彼を、自分だけの物にしてしまえたら。
それはどんなに素晴らしい事だろうか。

全てを覆い隠して、綺麗な世界を、ただ。

「雪が降る街、或る建物に昇って初雪を見ながら永遠の愛を誓うというまじないがあるらしい」
「へえ?」
「やってみないか、俺と」
感心したような声を上げる彼に手を差し出す。
きょとんとして見せたのち、彼は小さく肩を揺らした。
「長谷部くんでもそんなの信じてるんだ?」
「俺とてそんなものに縋りたくなる時もある」
笑い乍ら首を横に傾ける彼にそう言って肩を竦める。
そうして小さい笑みを作った。
「俺と、初雪を見ないか。・・・光忠」
「僕で良ければ喜んで」
差し出した手を彼が掴む。
ひやりとしたそれは彼の・・・温度。
それを永遠に感じていたいと、思った。

雪を見よう。

今年初めての雪を、二人で。

(全てを白で覆い尽くして、黒の彼を隠してしまいたい

そうして、何の音もしない世界で二人きり)

「雪、降るといいな」
「そうだね」

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