好きって言って(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

好きって言って、好きって言って、他に何もいらないから!




「え?光忠さんが好きって言ってくれない?」
「・・・声がでかい、大和守」  
素っ頓狂な声を出す大和守安定にへし切長谷部は窘めるように小さく言う。
「あ、すいません」
「・・・いや」
小さく謝る安定に長谷部も小さく返した。
「そんなまあ付き合いたての恋人でもあるまいし」
「関係ないだろう。付き合いたてだろうがそうじゃなかろうが、な」
そう笑いながら長谷部は前を見る。
そこには燭台切光忠がいた。
本丸に何らかのバグが発生した状態で鍛刀され生まれた刀・・・『彼女』は刀剣女士である。
それからなんやかんやあって刀剣男士である長谷部と付き合うことになった。
ちなみに本丸公認である。
しかし、付き合い始め、数カ月経つが光忠の口からそんな言葉を聞いたことはなかった。
「でも意外です、長谷部さんの口からそんな事が聞けるなんて」
「まあな。お前だってそうだろうが」
「僕は・・・」  
安定が言いよどみ、ちらりと向こうを見やる。  
そこにいたのは加州清光、『彼女』もまた刀剣女士だった。  
初期刀である清光が女性だったことから主が「うちの刀は皆女子だ!」と喜んだのは秘密事項である。
「まああいつは恋人というか腐れ縁ですし」
「そういうものか」
「そうです。っていうか僕らの話はどうでもいいんですよ」  
少し遠くにいる・・・洗濯をしている彼女たちを見ながら安定が話を切り上げようとしてふと首を傾げた。
「・・・と、いうか光忠さんってあんまり人に対して好きとか言わなくないですか?」
そう言って安定は二人を見る。
つられて長谷部もそちらを向いた。
「手ぇ冷たぁい」
「もー。じゃあ暖めてあげようか」  
泣き言を言う清光の手をぎゅっと握り、光忠はにこりと笑う。  
それに清光がぱあと顔を輝かせた。
「あったかぁい!燭台切さん、好きー!」
「ふふ、僕もだよ」  
にこにこと彼女が言う。  
それに、きゃー!と黄色い声を上げて清光が抱きついた。  
わりと微笑ましい光景である。  
ね?と安定が首をこてりと倒した。
「誰に対しても好きなんて言いませんよ、光忠さん」
「いや、まあ、そうなんだが」
「いいんじゃないですか?好きの大安売りよりマシです」
くすと安定が笑う。
まあ確かにそうだと思った。
誰に対しても好きだ好きだと振りまかれるより遥かにマシであろう。
そう、光忠は「好き」と言葉で言わないのである。
それは恋人である長谷部だけではなかった。  
言うとして「良い」とか「好み」とか。  
別に陳腐な言葉を並べ立てて欲しいわけではないけれど、こうも言わないと何が何でも言わせて見たいのが男の性で。  
加えて長谷部は負けず嫌いだった。  
誰に対しても言わない「好き」を自分に向けてくれたらと。
「まあ後は」  
安定が笑う。  
彼がこうやって笑うときは良くないことを知っていた。
「長谷部さんも好きを売ってあげたら、いいんじゃないですか?」




「おい、燭台切」
「?なあに、長谷部くん」
部屋で洗濯物を畳んでいた光忠に声をかけるとこてりと首を傾げる。
「いいか」
「え?うん」
小さく頷く光忠の前に座り、長谷部はすうと息を吸った。
「好きだ」
「・・・ぅえ?」
「燭台切・・・いや、光忠。俺はお前が好きだ。今まで口にしたことはなかったが・・・俺はお前が好きだ。愛している」
「は、長谷部くん・・・?」
ぴしりと固まって光忠が呆けた顔で見つめる。
その顔も可愛いなと思いながら長谷部は言葉を続けた。
「そうだ、お前の顔は一番好みだな。怒った顔も笑った顔も良いが特にその照れた顔、それが一番好きだ。それにその声。お前の声は癒される。うん、好きだぞ、光忠」
「何、何なの、もう!!」
焦り、逃げようとする光忠の細い手を引く。
好きと言って欲しいがために長谷部が選んだのは言葉責めだった。
「それから胸だな。お前はコンプレックスだというがこう、なんだ、俺が育てた感がたまらないというか気持ち悪いくらいに大きすぎもせずかといって加州のように小さすぎもせず俺の好みぴったりで・・・」
「長谷部君気持ち悪い!」
紅い顔をほんの少し青くさせる光忠。
言い過ぎたと思った瞬間突き飛ばされていた。
「何をする!」
「こっちの台詞だよ!っていうか君、大きいのが好きじゃなかったの?」
怒鳴る長谷部にぶすくれ、手を腰にやる彼女。
そうやるとその胸が強調されることを知らないのだろうか。
「俺がいつそう言った。まあでかいに越したことはないがお前の胸は俺が育ててるんだ。嫌いじゃない理由はないだろう」
「君に育ててもらってるつもりはないけどね!」
ぷんすこする光忠の頬に手をやる。
「ああ、後、戦場で敵と対峙している時な。あのときのお前は綺麗だ。ぞくぞくする」
「・・・長谷部、くん」
「なんだ、褒められるのは嫌いか?」
くすくすと笑えば彼女は小さな声でだって、と言った。
「だって、なんだ?」
「は、恥ずかしいじゃないか・・・」
顔を真っ赤にする光忠の頬に口付ける。
「俺はお前が好きだ。愛してる」
「ぼ、僕は・・・」
「うん?」
小さな声でごにょごにょと言う光忠に笑いを押さえながら聞けばふ、と柔らかいそれが長谷部の頬に触れた。
「・・・僕、も長谷部くんと同じ・・・だよ・・・?」
少しはにかんだ表情でそう言う光忠。
好きという言葉は聞けなかったが・・・まあいいかと思う。
離れようとする彼女をすいと抱き上げた。
喰わぬ据え膳なんとやら。
「ちょ、ちょっと?!!」
「煽ったのはお前だろう。・・・俺は唯お前に好きだと言って欲しかっただけだが」
「な、あ・・・?!!」
口をぱくぱくとし、それからじたじたと暴れる。
彼女の胸が揺れた。
「君、ねえ・・・!!!下して、下してよ!!」
「断る。・・・まあ、あわよくば、とは思っていたが」
「騙したのかい?!」
「失礼なやつだな。騙してはおらんだろう。言っていないことがあっただけだ」
「そういうの、騙してたって言うんじゃないかな?!」
きい!と怒る光忠に口付けて黙らせた。







ねえ、好きって言って、好きって言って、他に何もいらないとかはやだ!

(やっぱり、お前が丸ごと欲しい)

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