暖める(へし燭SSS・ワンドロお題)

寒い。
寒すぎる。
雪が降ったとかなんとか言って喜んだのは数日の内で、すっかり寒さにやられてしまった。
・・・去年はこんなに寒くなかったと思うのだが。
「・・・長谷部君さあ」
「あ?」
呆れたような声に上を向く。
ぶすくれた表情をしているのは光忠であった。
「その内番服の下何枚着てるんだい?」
「4枚だが」
その疑問にあっさり答えれば着過ぎ!と怒られる。
「着込んで何が悪い」
「もこもこだよ?!格好悪いよ!!いつもの君は何処に行ったの!」
「知るか」
もう!と怒る光忠にそう言った。
確かに長谷部の内番服の下はいつもより着込んではいたが何も無理して寒さを耐える必要はない、と思う。
大体。
「お前も首巻をしているだろうが」
指摘すればきょとんとした光忠が、ああ、と己の首を指さした。
「ねっくうぉーまー、ね。これはお洒落だし」
小さく笑う彼がしているのは以前主にもらったとか言っていたやつで。
「寒さにお洒落もくそもあるか」
「長谷部くんほっんと寒がりだよねぇ」
ふわふわ、おかしそうに笑う光忠。
「冬は好かん。まだ夏の暑さの方が耐えられる」
憮然として言えばまた笑った。
黒い髪がふわりと揺れる。
笑うその口元を隠すのは主からのねっくうぉーまー。
「・・・こっち来い」
「?何、長谷部くん」
ついついと呼び寄せると不思議そうな表情の光忠が近づいてくる。
かがみこんだ彼の首元に手を突っ込んだ。
「わひゃ?!」
「お、暖かいな」
すっとんきょうな悲鳴を上げる彼を無視し、長谷部は手を彼の首筋にあてた。
じんわりと伝わる体温が気持ちいい。
「も、ちょっと、な・・・に!!」
しばらくそうやっていたが、もう!と言いながら光忠がその手を引っこ抜いた。
再び外気にさらされる。
「やめてよ、もう!!すぐそうやって・・・!」
「・・・他の奴にはやらせていたのにか」
「へ?」
怒っていた彼にそう言ってやればすぐきょと、とした。
暫く考えるそぶりを見せ・・・あ、と呟く。
「・・・もしかして・・・嫉妬?」
こて、と首を傾げた。
長谷部が言ったのは・・・誰だったかは忘れたが彼の首元に手を突っ込んでいる連中を見たからで・・・光忠自身もそれに覚えがあるらしい。
告げたそれが当たりだと分かれば小さく声を漏らした。
「っふふ、あはは!」
けたけたと光忠が笑い出す。
「・・・笑う事ないだろう」
「だって・・・」
ぶすくれながらも長谷部はくすくすと笑う光忠の頬に手を寄せた。
その手に彼が摺り寄せてくる。
「長谷部くんの手、冷たいね」
「お前は暖かいな、光忠」
「じゃあ暖めてあげようか?」
「そうしてくれるか」
二人で笑い合う。
幸せだと、思った。

いくら寒くても。


彼がいればいつだって暖かい。



寒い冬、体温を分け合いましょう


ーー
寒がりでめっちゃ重ね着してる長谷部(長谷部先生)とつけてるネックウォーマーに手を入れられる光忠(長船先生)の実話ネタ。
生徒に、ネックウォーマーの中に手ぇずぼってされる長船先生尊いよねって話。

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