添い寝(光忠♀ワンドロ・へし燭♀

珍しい事もあるもんだ。
ぼんやり天井を見上げ、長谷部は思う。
事務仕事が片付き、ついうっかり寝転んでしまったのがいけなかった。
ここ何日か寝ていなかった事も大きい。
うとうととまどろみながら「光忠が怒るな」と頭の端を掠めたのだけれども人間の三大欲求の一つには勝てなかった。
「長谷部君?」
こんこん、という音の後、すっとふすまが開く。
普段なら起き上がり返事が出来るのに今日は出来なかった。
数秒の後「しょうがないなぁ」という苦笑気味に呟く声が聞こえる。
大方、あの綺麗な瞳を大仰に見開き、それから花が綻ぶ様に笑ったのだろう。
見なくても容易に分った。
あの笑みを見ることが出来なかったのは残念ではあるけれど。
・・・と。
ふわ、と何かが身体にかけられた。
やわらかく、暖かいそれは毛布か何かだろう。
いつもは一旦起こしてくるのに、甘やかしてくれるつもりだろうか。
そのまま立ち去るのかと思いきや、布ずれの音が頭の上でした。
「・・・綺麗な、顔・・・だなぁ・・・」
ふっとかかる息と柔らかい手の感触を頬に感じる。
「・・・無理しないでね、長谷部君」
静かな声と少し迷うような気配。
「ねえ長谷部くん。あのね」
もう眠ってしまったと思っているのだろうか。
ふわふわとした心地良い眠気を必死に振り払い、彼女の声を聞こうとする。
「・・・好き、だよ?」
小さな声と共に頬に何かが掠めた。
それからえへへ、と笑って腕に縋り付いてくる。
ふに、と腕に彼女の豊満な胸が当たった。
なるほど生殺しという奴か。
長谷部の眠気はとうに何処かに行ってしまったのに、隣からすぅすぅと寝息が聞こえてくる。
そういえば彼女も最近働き詰めだったか。
ちらりと隣を見れば目を瞑り、普段よりあどけなく幼い表情の光忠がいた。
手を伸ばし、黒い髪を撫でる。
「・・・お前も無理するなよ、光忠。愛している」
髪に口付け、長谷部も再び目を閉じる。

たまのこういう時間もいいだろう。


穏やかな風が、部屋を抜けた。




「おい、光忠。起きろ。・・・襲うぞ?」
「ふゃ?!ぁ、や、にゃに、おっぱい揉まな・・・っ!!あぅ、も、襲ってるじゃないか、長谷部くんの馬鹿ぁ!!」
数十分後、光忠の悲鳴が本丸に響き渡るなんて・・・まだ知らない。

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