桜舞う/そして、また(へし燭SSS・ワンドロお題)*教師パラレル(リアルへし燭)

自分のデスクに戻ると引き出しを片付けている長船先生がいた。
「・・・何を・・・」
そう言いかけて、ああ、と思う。
長船先生、23歳の体育非常勤講師。
比べて俺は27歳にして常勤講師から新任社会教諭に決まったばかりだ。
どちらが優遇されるかと言えば教諭の方に決まっている。
俺はここに残り、長船先生は異動が決まっていた。
今日は長船先生がここで勤務する最終日。
「なんだ、お菓子ばかりだな」
くすくす笑って席に着く。
彼の引き出しの中身は軽食用であろうお菓子ばかりだった。
確かに腹が減るから、俺の引き出しにもいくつか入ってはいるが。
「そうなんですよ、お菓子とか開けてない珈琲缶とか」
「俺が貰ってやろうか?」
俺を見上げて照れた様に笑う長船先生に提案すると「あーもうぜひ貰ってください」と言った。
渡されたのは小さなチョコレート。
「・・・本当にいいのか?」
「はい、是非」
「では貰うな」
他にもありますよ、とにこにこする長船先生に、遠慮なく、とそれらに手を伸ばす。
「珈琲とか、開けてないんですよ?」
「勿体ないなぁ」
くすくす笑いながらそれを受け取る。
僕の形見だと思って、と長船先生が珍しく無邪気に笑った。
「俺、長船先生の隣で良かった」
そんな彼に言えばまた笑う。
引き出しも挟まない、真隣。
普通なら嫌だろうが彼にはそんな感情を一切抱かなかった。
寧ろ真逆で彼は良い匂いで(香水のような爽やかなそれだ)癒される。
「そろそろ6時ですよー」
斜め後ろに座っていた女性の先生が言い、周りが仕事を片付け始めた。
今日は学年で最後の飲み会なのだ。
彼が荷物を纏め、俺もそれに続いて立ち上がった。




以前に夢を見た事がある
俺はこの命を生きる前・・・つまり前世は【刀剣】だったらしいのだ。
へし切長谷部という変わった名前の。
社会専攻というのが幸いし、俺はそれらの資料をすぐに手に入れることが出来た。
それによれば元は織田信長の刀で、部下に下げ渡されたらしい。
織田信長はお気に入りの刀がいくつかあった。
それが光忠・・・後の燭台切光忠、俺の目の前に居る男の前世。
何故彼の前世までわかったのかは知らない。
同じ刀剣だったからかもっと他の何かがあったからか。
「長谷部先生?」
きょとりと長船先生が首を傾げる。
なんでもない、と笑い、ふと空を見上げた。
何処までも黒い空。
「流石に夜は寒いな」
「そうですね」
昼間は暖かかった、と愚痴っぽく言えば彼は小さく笑って同意した。
早く桜が咲く、暖かい時期になればよいのに、と思う。
しかしそれは同時に彼との別れを示していて。
「僕の地元、もう桜が綺麗ですよ」
「見に行ってみたいな」
「・・・。・・・ぜひ、来てください」
ふわり、と長船先生が笑う。
いつか、いつか。
彼が試験に受かって、俺もまだ此処に居て。
そうしていつかその時が来たら。

桜舞う空の下、夢で見た「へし切長谷部」と「燭台切光忠」の様に離れてしまったとしても。



君を思い続け。


そしてまた、君に会おう。



「長谷部先生に質問のコーナー!」
「いえーー!!」
「長谷部先生、好きな女性のタイプは?」
「そうですねー・・・。穏やかで癒し系で僕の三歩後ろを歩いてくれるような」

(彼のような、人)

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