童話パロ(光忠♀ワンドロ・燭♀総受け

深々と雪が降り積もる。
それはクリスマス・イブのことだった。
「光忠は相変わらず可愛いなぁ!!」
「お、狡いぞ!俺も光忠を可愛がりたいんだからな!」
「もう、僕は可愛くないよ??」
少女を囲み大人たちが騒いでいる。
その中心にいる少女、光忠はそう言いながらもにこにこと嬉しそうだ。
「そら、プレゼントだぞぅ!」
「ありがとう、国永さん!」
小さな包みを受け取り、ぱあと顔を輝かせた光忠はそわそわと叔父である五条国永を見上げた。
開けてみろと本人よりそわそわしている国永に言われ、光忠は包みを開ける。
そこには口の大きな、肌の浅黒い兵隊が横たわっていて、光忠はぱちくりと目を瞬かせた。
「・・・お人形?」
「どうだ、驚いたか!」
「どうしてお口が大きいの?」
「ああ、それはな。こうして」
ひょいとそれを取り上げ、テーブルに乗っていた栗を一つ取り、人形の口の中に入れる。
音を立てたかと思うと栗の殻が綺麗に剥けた。
「栗の殻を割る人形だぞ!」
「うわぁああ!!」
驚いた声を上げる光忠に、気を良くした国永がその黒い髪を撫でる。
すごい!と跳ねる彼女のフレアスカートがぴょこぴょこ揺れた。
・・・と。
「気味の悪い人形だな」
その、不機嫌そうな声に光忠は振り返る。
そこには従兄である長谷部国重が立っていた。
つかつかと歩いてきた国重が光忠の手から人形を取り上げる。
「か、返してよ!!国重兄様!」
「はっ、こんな人形、こうして・・・」
必死に手を伸ばす光忠を無視し、国重は人形の口に栗を無理に突っ込んだ。
ガキッと奇妙の音がして大きな口から木の破片が飛び出す。
「あ〜!!!」
普段は出さない悲鳴を上げ、ふるふる震えた光忠はキッと国重を睨み付けた。
「な、なん・・・」
「国重兄様のばかあ!!」
「・・・なっ!」
怒鳴り、わんわんと泣き出す光忠に、あーあと声を上げたのは国永、呆れたように国重の頭を撫でたのはもう一人の伯父、日本号金房だ。
「意地悪したい年頃って言ってもなあ」
「う、五月蠅いぞ、日本号!光忠もそれ如きで泣くな!大体五条がこのような人形を買ってくるから・・・!」
「なんだよ、俺の所為ってかぁ?」
「ほら、泣くな泣くな。おじさんが直してやるから」
「・・・っく、ふぇ・・・ほんと・・・?」
「ああ」
泣きじゃくる光忠の頭を優しく撫で、金房は人形を取り上げる。
「これをこうして・・・ほら、どうだ?」
得意げに見せられた人形は先程と寸分狂わず動いていて、思わず目を見開いた。
隣にいる国永や国重も驚いた表情をしている。
「ほう、これは驚いた」
「・・・金房おじさまぁ・・・!すごい!ありがとう!」
抱き付くと金房は嬉しそうに頭を撫でてくれた。
「いやいや、気にすんな」
「僕、ベッドに寝かせてくる!!」
ぎゅっと人形を抱きしめ、光忠は部屋にかけ戻る。
その場には罰の悪そうな表情の国重が残った。



「ん・・・」
低い時計の音に光忠はふと目を開ける。
どうやら人形を寝かせて、その傍らで眠ってしまったらしかった。
あの鐘の音は12時を知らせるもので、もうパーティーはとうに終わってしまったかと思うと少し哀しくなる。
金房や国永には会う機会も少ないのに。
「僕・・・。・・・え?」
ふ、と宙を仰いだ。
天井が高い。
ベッドが異常なほど広く感じた。
「え?え??」
驚いたのはその所為だけではない。
「姫を連れ出せ!姫を探せ!姫は何処だ!!」
開いた窓から、七つの頭を持つはつかねずみの王が指揮する、はつかねずみの大群が押し寄せてきたのだ。
「ひっ・・・」
「姫を連れ出せ!姫を探せ!姫は何処だ!!」
光忠を目掛けてねずみたちが声を揃えて向かってくる。
恐怖と言ったらなかった。
「や、やだ、国重兄様!助け、て!!たすけてぇえええ!!」
「待て」
ぎゅうと目を瞑る光忠の頭から降って来た声は国重・・・ではなく。
「・・・え?」
貰ったはずの栗を割る兵隊人形がねずみに龍の刻印が入った剣を向けていた。
それからの展開は早く。
ねずみを次々になぎ倒し、ついに王冠を被ったねずみのみになった。
「姫は渡さぬ!我が王国に連れ帰り嫁とするのだ!」
「させん」
咆哮を上げるねずみの王に向かって人形が剣を振り上げる。
「が、頑張って!」
思わず声をかけると人形が振り返り笑った・・・気がした。
「・・・ぐっ・・・」
しかしねずみも王というだけあり強さも段違いで、人形は劣勢となる。
また先程の様に壊れてしまったらと思うと気が気ではなかった。
バラバラになった人形が思い返され、ぞくりと背を震わせる。
もう見たくなかった。
「だ、だめぇええ!!」
思わず叫び、傍に有った腕時計を投げる。
「ぐあ・・・っ」
頭の一部に当たったねずみが断末魔を上げて倒れた。
瞬間、煙と共にいなくなりぽかんと部屋を見渡す。
これはまだ夢なのだろうか?
「・・・光忠」
名を呼ばれ、光忠は振り返る。
目を丸くし、『彼』を見上げた。
栗を割る人形は青年となり、光忠に笑みを向けている。
いつのまにか部屋の鍵は元の大きさに戻っていた。
「あんたは俺を二度も助けてくれた」
「・・・え、えと」
「礼を言う」
「れ、礼だなんてそんな」
膝まづく青年に光忠はぱたぱたと手を振る。
この綺麗な青年にそう言われると何だかくすぐったかった。
それからふと首を傾げる。
「・・・どうしてお人形さんだったの?」
「これは呪いの所為だ。昔、あんたにそっくりの姫を助けた代償でこの姿にされた」
「そ、そうなんだ・・・」
青年のいう事は非現実だが何時唯は素直に頷いた。
あの光景を見れば誰だって信じるであろう。
「俺の名は倶利伽羅。・・・あんたを俺の国に招待したい」
「・・・うん!」
大きく頷いた彼女を抱き上げ、青年・・・倶利伽羅は金の目を細めた。
「行こう」
「・・・待て!行くな・・・光忠!!!」
何処から現れたのか大きな扉を開けて倶利伽羅が足を踏み出そうとした瞬間、国重の声が聞こえた気がして光忠は金の目をぱちくりと瞬かせる。
「国重・・・兄様?」
振り返るが白い扉は閉められた後で。
彼女のフレアスカートがふわりと風に揺れた。

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