衣替え(へし燭SSS・ワンドロお題)*リアルへし燭

冬は嫌いだ。
寒いし何が良いのかわからない。
まあ夏が良いとも一概には言えんが。

「・・・さて、どうするか」
一人暮らしのワンルーム、俺は数段の衣装ケースを前に腕を組んでいた。
箱の中身は夏用の服、周りに散らばるのは冬着ていた服だ。
実家に送っても良いがそれはそれで・・・。
・・・あ。
俺はスマフォを取り出し、ある人物へとlineメールを打った。



「こんばんは、長谷部先生」
「悪いな、呼び出して」
「いえ」
にこりと笑うのは前に同じ学年を見ていた長船先生だった。
2つ下の青年で、彼の職場が代わったのを切っ掛けに付き合っている。
「もう衣替えの季節ですしね」
「長船くんは?もうやったのか」
「うちは実家なんで」
「そういえばそうだったな」
ふわりと笑う長船先生に俺も笑った。
「あ」
「あ?」
小さな声に、どうしたのかと振り向こうとした瞬間。
「彼パーカー?」
長船先生が落ちていたそれを拾い、にこりと笑ってきて見せる。
・・・素でやってるんだろうか。
袖が少し余るのが何とも言えな・・・じゃなくて!
「・・・長船くん、昔からそういうところあるよな」
「え?」
きょとんとする彼に何でもないと返し、作業に入る。
「そういえば、仕事の時は何着てるんだ」
「もっぱらTシャツとハーパンですかね」
「は?」
「え?」
俺の反応に意外そうな表情をするが…そりゃあこっちとてそんな反応にもなるだろう!
「危ないからやめろ?」
「危ない・・・?」
「誰が見てるか分からん」
「え、でも去年も履きましたよ?」
「去年は俺がいただろう」
自分が見ていないところというのが嫌だと告げれば長船先生はくすくすと笑う。
「僕の足なんて気にするの、長谷部先生だけですよ」
「俺みたいなのが山ほどいたらどうする」
「それは・・・職場の治安を疑いますね?」
無邪気にわらう、涼しい格好をした無防備な彼は。
理性を無くしてしまいそうなそれ。


今だけは冬でも良かったかもしれないと思わず天を仰いだ。

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