病/無自覚(ねんへし燭SSS・ワンドロお題)

それはそう、少し前に遡る。


彼らの初めましてよりほんの少し後の話。


ねんどろいどのへし切長谷部は悩んでいた。
自分が初めてこの世に生を受けてから数日、ある人物をみると心臓の動機が止まらない。
顔が赤くなるのを隠せないし身体中が熱くなるのだ。
これは何かの欠陥ではないだろうか。
「…ねんへしくん?」
「…!?」
ぐるぐると頭を悩ませていたその時、ふと声をかけられ、大仰に振り向いた。
きょとんとした表情で立っていたのは燭台切光忠である。
花が綻ぶように笑い、どうしたのかと尋ねてきた。
「悩み事かな」
「…わかるのか」
「分かるよ。だって悩んでる格好が長谷部くんそっくりなんだもの」
聞けばくすくす笑って答えられ、思わず顔をしかめる。
彼が言う件の「長谷部」はへし切長谷部、つまりねんどろいどではない…本来の頭身の、己の元となる刀だ。
「…なあ、みつただ。おれはあるしょうじょうになやまされているんだが」
「?うん」
疑問符を浮かべながら光忠が頷く。
腰掛け、ふわりと笑みを浮かべる彼に、悩みつつも言葉を選んだ。
「からだがあつくなるんだ」
「まあもうすぐ夏だしねぇ」
「かおがあかくなるのをとめられん」
「日焼けかな?生理現象だし」
「しんぞうのこどうがうるさい」
「熱中症かな…」
「めのまえをとおるだけでつかまえてかみをひっぱりたくなるし、だれかとはなしをしているのをみるとしんぞうがむかむかしてすぐにかけよってほおをつねりたくなるんだ」
「…んん?」
「わらっているすがたをみるとしんぞうがあつくなるし、おびえているすがたをみるとどうきがとまらなくなってもっとみたいとおもう」
「ねぇ待ってそれ」
慌てたように光忠が制止する。
なんだろうかと言葉を紡ぐのを止めた。
「…ねんへしくん?その症状が出るのってさ、もしかして誰か特定の人物のことかな」
「ああ」
「…それってさ」
「?みつのことだが」
「…やっぱり」
首をかしげながら言えば、そんなところまで長谷部くんそっくり、と光忠がため息をはく。
みつ、ねんどろいどの燭台切光忠。
彼に会ってからこの症状が治まらない。
「ある意味、病気なのかな、これも」
「?なんのやまいだ?」
ねんどろいどの長谷部の問いに光忠は答えない。




無自覚の恋の病
(恐らくそれは一生治ることのない病気)

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