雨の日/紫陽花(ねんへし燭SSS・ワンドロお題)

ざあざあと、雨が降る。
「長谷部さん」
「ん、ああ、すまない」
大和守安定が長谷部に毛布を渡した。
それを受けとる長谷部の膝には寝ている光忠がいる。
光忠の身体に毛布をかけ、ふと窓の外を見つめた。
ねんへしとねんみつが仲良く走り回り、加州清光が「廊下は走んないの!」と声を荒げている。
雨の日は出陣も何もないからつまらないのだろうと思った。
「そういえば」
「あ?」
安定が思い出したように話しかけてくる。
降りあおぐと首をかしげ、「ねんのことで」と言った。
「仲、悪かったんですよね?」
「ああ。最初はな」
「いつからなんです?」
「うん?」
「いつから仲良くなったんですか?」
安定のそれに長谷部は上を向く。

そう、確かあれは。


あの日も雨の日だったかもしれない。
相変わらずねんへしがねんみつを追いかけ、怯えたねんみつが長谷部か光忠に泣きつく、ということを繰り返していたある日。
あまりに鬱陶しいから、少し話し合え!と怒鳴ったのである。
「みつのことばはわからん」
ぶすくれるねんへしに、あの日はまだ調子がよかった光忠が微笑んで「ねんへし君は花言葉って知ってる?」と言った。
「はな、ことば?」
「そう。花にもひとつひとつ意味があってね…」
くすくす笑って二人に花言葉を教えた光忠は、「相手に伝えたいことを花言葉に込めたらどうかな?」と提案する。
二人がぱたぱたと出ていき、数分後。
「お?」
「へえ」
長谷部が驚いたように目を見開き光忠が意外そうに笑う。
二人が持ってきたのは紫陽花だった。
紫陽花。
花言葉は。

「…あなたはうつくしいがれいたんだ」
ねんへしが言う。

寂しそうに俯くねんへしにねんみつがぎゅっと抱きついた。
「みつ?!」
驚くねんへしにねんみつは首を振る。


紫陽花。
ねんみつが込めた思いは。

(彼はずっと待っていた)

「辛抱強い、恋」

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