君の手/僕の手(へし燭SSS・ワンドロお題)

綺麗な手をしている、と思った。



「光忠?」
「?どうしたんだい、長谷部くん」
部屋に来た俺に、きょとんとした顔で光忠が首をかしげる。
もう寝るだけの時間帯、着流しからのびる白く綺麗な手の先には黒い手袋がついていた。
普段から彼が手を隠しているのは知っている。
どうやらそれが光忠の最期と関係することも。
だから日中は何も言わなかったのだが。
「寝るときくらい外せばどうだ」
「え?ああ」
俺のそれに光忠は困ったように笑う。
嫌なものは嫌だ!と拒まれるかと思ったのだがそうではないらしい。
少しほっとした。
光忠の傍にどかりと腰を下ろし、その手をとる。
するりとそれを外してそのまま彼の手首に口付けた。
「!ちょ、っと」
「綺麗だ」
驚く光忠にそっと囁く。
金の目を見開き、くすくす笑った。
「長谷部くんて、なんか」
「…なんだ」
「何でもない」
含むように言った後、ふわりと光忠は笑む。
「長谷部くんの手も綺麗だよね、働く男の人って感じ」
笑った光忠が今度は俺の手を取り、甲に口を寄せてきた。
軽く触れる、唇。
ああ、やはり光忠は可愛らしい。




手首へのキスは欲望


手の甲へのキスは敬愛


それぞれの意味を、君に。

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