夏休み(へし燭ワンドロSSS

夏。
蝉が煩く鳴き喚き太陽が照りつける、季節。
「はぁ?夏休み?」
「そう!!」
俺の胡乱気なそれに加州がぐっと拳を握りしめ期待感に満ちた目で見つめてきた。
「主の時代にはね!夏休みってのがあるんだって!」
「…だからなんだ」
「だーかーらぁ」
へし切は分かってないなぁと加州が言う。
だからへし切と呼ぶなというに。
「へし切に夏休みをあげようと思って!」
「…はぁ??」
にっこりと笑う加州。
いや、こいつは何をいってるんだ。
夏休み?
夏休みだって?
「俺は休みを所望してないが?」
「ぐっ。良いだろー。ちょっとくらい。主もちゃんと休まなきゃダメだよって言ってたもん」
「主がなぁ」
ぶすくれる加州に俺は上を向く。
確かに主は優秀な方なんだが…な。
「はいっ、じゃあ部屋から出た出た!」
「っておい待てこら!」
ぐいぐいと手を引かれ、仕方無しに立ち上がる。
まったく、どこに連れていく…。
「あれ?長谷部くん?」
「あ?燭台切?」
引っ張られ、付いていった先には同じく大和守に手を引かれた光忠がいた。
「それじゃあ後は」
「ごゆっくりー」
ぺいっと空いている部屋に投げ込まれ、戸を閉められる。
「って、おい!」
「安定くん?!清光くん!!」
あまりの出来事に一瞬固まってしまったが慌てて二人して戸に走り寄る。
棒でもかませたのかふすまは開かなかった。
恐らく光忠も俺と同じように休みを賜ったのだろう。
なら。
「ど、どうしよう長谷…うわっ?!」
焦ったように俺を見る光忠を押し倒す。
「ったぁ…。ちょっと、何やって」
「今日をもって俺たちは夏休みらしい」
「え?ああ、うん、安定くんが言ってたね」
「休みくらいはゆっくりしたらどうだ」
「…それ、長谷部くんが言うの」
少し驚いたように目を見開いてから光忠はくすくすと笑った。
それから珍しく俺の背に腕を回してくる。
毎日忙しい光忠に、せめてもの休息を。


夏のおやすみ、夏休み。

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