夏の夜(ねんへし燭SSS

夏の夜は暑い。
そういうものだ。
…そういうもの…なんだが。
「…あつい」
ねんが大の字になってぽつりと呟く。
その隣ではねん光がぱたぱたと甲斐甲斐しく団扇でねんを仰いでいた。
…仲がよろしいことだな。
「ねん光に仰いでもらっている身で文句を言うな、ねん」
「あついものをあついといってなにがわるい?」
むっとしたようにねんが俺に言う。
「まあまあ。ねんくんはやりたくてやってるんだし。…ね?」
くすくすと笑う光忠がねん光に聞いた。
ねん光がこくりと頷く。
…まったく。
「そういえば、真夏の夜の夢って喜劇、知ってるかい?」
「ああ、西洋の夫婦乱交の話か?」
「長谷部くん、言い方!!」
もう!と光忠が怒る。
…似たようなものだろうに。
「あのね、悪戯好きの妖精が起こしたちょっとした手違いで二人の男が元々好きだった一人の女性の、その親友を好きになってしまう話だよ。最後は魔法も解けてお互いちゃんとそれぞれの相手と結ばれるんだけど」
「それがなんだ?おれはまほうとやらにかかってもねんをいちずにあいするが」
「…!♡」
「ふふ、ねんくんならそう言うと思った」
自信たっぷりに言うねん、ぱあと表情を輝かせねんに抱き着くねん光、それにくすくすと笑う光忠。


平和な夏の夜だと思う。


「喜劇よりも怖い話の方が貴様は好きだろう?ん?」
「こわいはなしだ?…ふん、でかいのがこわいだけじゃないのか」
「…後々後悔するなよ、ねん」
「はっ、のぞむところだ!」
「〜!!っ!!」
「もー、二人ともやめなよ、ねんくん怖がってるだろう?」

暑い夏、夜風が簾を押しのける。
りりり、と聞こえる虫の声。

穏やかだ、とそう思った。


「で?何でそんな話を?」
「ん?内緒」

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