只今、戦闘中(へし燭ワンドロSSS

刀剣男子とは常に戦うべき生き物である。

「大和守、いたか?!」
「いません!」
刀を振りながら、大和守に声をかける。
少し頭上から声が降ってきた。
くそっ、まったく何処へ行ったんだ?
「もうこの辺にはいないんじゃ?」
「いや、いる」
すとん、と屋根の上から降りてきた大和守にさらっと言った。
気配はするんだ、きっとどこかに…。
かさ、と音がする。
…あそこか。
「大和守!」
「はぁいっと!」
俺のそれに大和守が跳んだ。
うわっと言う声と共に草むらから加州が飛び出す。
「はっ、お前なんかに捕まってたまるかっての!」
「はぁ?!僕を何だと思ってるのさ!」
ガキン!と刀同士がぶつかりあった。
戦場では見られない光景。
沖田刀の戦闘に少し高揚した
「そ、れ、にー」
「?!」
にやっと笑った加州の肩越しからびゅっと石が飛んでくる。
大和守の頬すれすれを掠り、俺の隣に落ちた。
「…光忠」
「やっぱり投石は難しいね。…当たらないや」
綺麗に微笑むのは光忠だ。
…漸くお出ましか。
「逃げ続けるとばかり思っていたがなぁ?!」
「僕がそんな無様なことをするとでもっ?!!」
嘲笑いながら俺は光忠に斬りかかる。
光忠が楽しそうに笑いながらそれをかわした。
…ああ、やはり戦闘中の光忠はぞくぞくする。
「君こそ、安定君に全部任せて逃げれば良かったんじゃないのかい?!」
「まああいつなら容易いだろうが…俺なら数秒間経たずに仕留められるからなァ!」
「現状できてないのに?笑わせるよね!」
ガキン!ガキン!と刀同士が交わる。
 
さて、何故俺たちが…演練の他本丸の刀ではない加州や光忠と斬り合っているかといえば…。
それは数時間前に遡る。




「勝てば何でも一つ願いを聞く」
主が企画した、戦闘訓練で用意された報酬。
俺と組んだ大和守は、「まあ貰えるならもらった方がお得ですよね、報酬」などと笑いながらちゃっかりやる気で…無論俺もそうだったが。
無事に全員倒し切り、俺は主に「では一日燭台切光忠を所有する権利を戴きたい」と進言した。
「じゃあ僕は加州清光を所有する権利がいいかな」
「…僕?」
「俺?」
きょとんとする二人。
二人は初期刀と近衛、この戦いには参加していない側なのだから当然だろう。
「俺は構わないけど。二人を物みたいに扱うってのはちょっとあれだし、二人の意見も聞いてやって?」
にこりと主が笑う。 
流石は俺たちの主だ。
「俺はやだよ。なんで、安定に自分の所有権託さなきゃいけないわけ」
「僕も、ちょっと…嫌かなぁ」
ぶすくれる加州と少し困ったように笑う光忠。
そういう反応は予想済みだ。
大和守に目配せをする。
「じゃ、勝負する?所有権をかけてさ。まあ僕が勝つけどね」
「や、やんねぇし!」
「へぇ?清光はぁ、怖いんだぁ?」
「…は?」
「僕に負けて所有権取られるのが、さ」
「…上等!」
加州が挑発に乗った。
ちょっと!と慌てる光忠に加州が笑う。
「燭台切さんは見てて。へし切含めて5分で片付けるからさ」
…ほう、なかなか言うな。
「光忠。貴様は他のやつに任せて高みの見物か?」
「そうじゃないけど。まあ清光くん強いし」
にこりと光忠が笑う。
言外に煽っているのか?
「お姫様は楽で良いな。自分一人では何も出来ない美術品。お綺麗な手は汚したくないと?」
「…」
俺の言葉に光忠は無言ですくりと立ち上がる。
冷たい目が俺を見下ろした。
「…調子に乗るなよ、へし切長谷部」
氷点下零度にまで下がった、【本気】の燭台切光忠の声。
「清光くんに長谷部くんみたいな雑魚、任せるわけにいかないからね。思い切り安定くんをぶちのめしておいで」
「はぁいっと!」

黒が跳ぶ。
白が避ける。

「ったいなぁ。お前これで本当に初期刀?なにその戦い方」
「勝てばいいんだよ。俺より練度低いくせにちょーし乗んな!」


「長谷部くん、ほっんと…嫌い」
「そうか?俺は存外好きだがな」

くるりと振り向く黒に刀を突き出した白。




さあさあ

只今、戦闘中!

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