花丸(へし燭SSS・ワンドロお題)

気づけば彼は本丸のことを全て引き受けてくれていた。
炊事、洗濯、畑仕事。
服はいつの間にか綺麗に畳まれて箪笥に入っているし、風呂は何時だって沸いている。
戦闘帰りに夜食を作って待っていてくれるのも、三時のおやつも、早朝出陣時の弁当から朝食まで引き受けてくれているのは彼、燭台切光忠だ。
大変だろうから代わって貰えと言えば、「お手伝いはしてもらってるし、存外僕はこの仕事気に入ってるんだよ」と笑顔で返してきて、長谷部は何も言えなくなった。
あまり無理をして欲しくはないのだけれど。
その日も夜遅くに夜食を作って持ってきた光忠を、長谷部はつい呼び寄せた。
「何だい?長谷部くん。呼び止めるなんて珍しいじゃないか」
くすくすと笑う光忠を長谷部は…ぐいと抱き寄せる。
「…わっ?!」
「…良い子だな、光忠」
「…?!」
胸に飛び込んできた光忠の髪をくしゃりと撫でた。
「ちょ、やめてよ、短刀じゃあるまいし…!」
「頑張っているやつを誉めて何が悪いんだ?」
「…もう!君ってほんと悪趣味…!」
顔を赤らめる光忠に笑いながら一層ぐしゃぐしゃと撫で回す。

いつも頑張っているからこそ。



ただの丸ではない、大きな大きな花丸を、彼に。

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