ハロウィン(へし燭SSS・ワンドロお題)

収穫祭。
万聖節の前日、元々はその年の豊作を願う祭りだった・・・と聞いていたのに。


「あ、長谷部さん」
「え?へし切?」
「・・・長谷部君!」
「・・・。・・・何をしてるんだ、お前らは」
三種三様の反応を返す彼らに長谷部は思わず呆れた声で問いかける。
振り仰いだ安定は白い羽に白い衣装・・・所謂天使というやつ・・・の恰好、眉を顰める清光は黒い羽根に黒い衣装・・・所謂悪魔というやつ・・・の恰好、ぱあ、と表情を輝かせ、座り込んで二人を着つけている光忠は黒い三角耳に燕尾服の間から覗く同色の尻尾、というそれだった。
「何だそれは」
「へし切見て分かんない?・・・仮装だよ。今度収穫祭あるじゃん、その準備」
長谷部の疑問に答えたのは清光だ。
彼は『可愛い恰好ができる』というだけで機嫌が良いのだろう。
「長谷部さんは狼男とか似合いそうですよね」
「やらん」
安定が笑うのに長谷部は嫌そうな表情を隠さずに言った。
「ふふ。長谷部君嫌いそうだもんね。・・・はい、出来た」
にこ、と光忠が笑む。
「ありがと、燭台切さん!」
「光忠さんありがとうございます!・・・行こう!清光!」
「わ、ちょ、待ってよ!!安定?!」
珍しく二人とも楽しそうで、思わず長谷部も光忠と微笑ましく見送った。
まあこういうのもたまにはいいだろう。
・・・巻き込まれるなら全力で拒否するが。
「・・・。・・・ね、長谷部君」
「あ?」
同じように見送っていた光忠が座り込んだ状態でこちらを見る。
長谷部にとって自分より目線の低い光忠は新鮮で、尚且つ懐かしかった。
「収穫祭では色んな家にお菓子を貰いに行くんだって」
「ほう」
「それで、貰う時にある台詞を言うらしいんだけど・・・」
そこまで言った光忠は悪戯っぽく笑い、両手を差し出す。
「悪戯かお菓子か!」
上目使いでにこっと笑う光忠。
・・・煽っているのだろうか。
「ほら」
「・・・あれ?」
その手に飴玉を一つ置いてやると光忠が首を傾げた。
「なんだ、悪戯したかったのか?」
「え、いや、そうじゃないけど」
不思議そうな光忠に小さく笑って言えば彼は飴を見つめて困ったように言う。
「長谷部君が甘いものを持ってたのは意外だなって」
「持ってなかったらどうするつもりだったんだ?」
可愛らしい笑みを見せる光忠に疑問をぶつけると彼はうーんと考えるように上を向いた。
「悪戯・・・。・・・えいっ」
「うわっ」
「え、うわああ!!」
座り込んだままの光忠が長谷部の服をぐん、と掴み、急な事に踏鞴を踏んだ長谷部は光忠に覆い被さる様に倒れ込む。
すさまじい音が辺りに響いた。
「・・・ごめん・・・」
「この、馬鹿力が・・・!」
「うぅ、ごめんってば・・・」
じろりと睨むと長谷部の下の光忠が小さく謝る。
黒い耳がぴくりと動いた。
「・・・燭台切、お前、これ・・・」
「・・・え?ああ。本物だよ。なんでも主の悪戯?みたい」
「・・・主・・・」
光忠のそれに長谷部は頭を抱えた。
・・・今の主は悪い人ではない・・・のだけれど。
「長谷部君?」
「・・・燭台切、お前菓子は?」
「え?あ、はい」
こてんの首を傾げる光忠に聞けば彼は差し出した手に甘食を一つ乗せた。
「さっき作ったんだ」
「そうか」
機嫌の良い光忠ににやりと笑って甘食を齧る。
「長谷・・・んんぅ?!!」
きょとんとする光忠の口に齧り取ったそれを舌で入れた。
そのまま口腔を貪る。
「んふ、ふぁ、ぁうん、や、はしぇべくん・・・?ひっ」
とろんとする光忠の黒い尻尾を握り、うにうにと手を動かした。
「やぅ、や、ぁ、ひぃう!!」
「ほう、感覚があるんだな」
いやいやと首を振る光忠に長谷部はくすくすと笑う。
「な、んで・・・?ぼく、お菓子渡し・・・ぁあう!!!」
「ああ、俺はその台詞とやらを言っていなかったな?」
涙目の光忠に笑い・・・長谷部は黒い耳に息を吹き込んだ。
「ふ、ぇ・・・?」
「覚悟しろ。・・・光忠」
ひぃ!と躰を大袈裟にびくつかせる光忠にくつくつと笑い・・・長谷部は囁く。



「trick but treat」

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