記念日(へし燭SSS・ワンドロお題)

光忠が怒っている。

なぜ怒っているのかは分からない。
今回は俺が何かやらかして怒らせたわけではないはずだ…多分、恐らく。
「長谷部さん、鈍感ですもんねぇ」
「…お前がそれを言うのか」
けらけらと笑う大和守をじろりと睨んだ。
何だかんだ言ってこいつの無神経な一言で加州を怒らせているのを俺は知っている。
「僕のは良いんですよ、下らないんだから」
「ほう?」
「こないだも記念日がどうとかで言い争いになって…」
「…ん?」
大和守が言った記念日、という言葉に思わず首をかしげた。
記念日。
…記念日?
「…あ」
…思い、出した。
そうだ、俺はあの時…。
『……記念日にしよう』


「すまん、光忠!!」
「…思い出した?」
むっとしたような光忠に袋を差し出す。
「思い出した。今日は鍋記念日だ」
俺の言葉に光忠は漸く微笑んだ。
…鍋記念日。
恋人になり二人で初めて冬を迎え鍋をつついた日。
他人から見ればなんと下らないと言われそうだが、二人にとってはそうじゃないんだ。


何でもない日が、大切な記念日になる

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