聖夜(へし燭SSS・ワンドロお題)

聖夜と呼ばれる特別な夜があるらしい。
異国の神の誕生を祝う、降誕祭などと呼ばれる日。
「何が楽しくて神の誕生なぞ祝わなくてはならないのか、俺には理解が出来ん」
「長谷部くん、現実主義者だよねえ」
しかめ面をする長谷部の言葉をからからと笑い飛ばしたのは光忠であった。
「そう言うお前は楽しそうだな?燭台切」
「僕だって特別好きじゃないよ。ただ、皆が楽しそうなのが嬉しいだけ」
「変わっている」
「そうかい?」
長谷部のそれにくすくす笑って光忠が立ち上がる。
短刀たちのところに贈り物を届け終わったところであった。
「皆が嬉しそうなのを見るのは僕も嬉しいよ?」
「お前自身が贈り物をされたわけでもないのにか」
「僕は笑顔だけで十分」
「やはり変わっているな」
綺麗な笑みの光忠に長谷部は溜息を吐き出す。
何故こう彼は自己犠牲が激しいのだろう。
確かに短刀たちや脇差、打刀の一部がはしゃいでいるのは微笑ましいものはあるが。
「・・・」
ちらと本丸の部屋の中を振り返れば酒の回り切った太刀やら大太刀やら槍連中が馬鹿騒ぎをしていた。
思わずちっと舌打ちを漏らす。
「爆発させるか」
「やめようよ、そんな前の主みたいなこと!相手がいないわけでもあるまいし」
わあ!と光忠が長谷部を制した。
前の主の事を引き合いに出されると長谷部は弱く、黙り込む。
それを見、光忠は小さく笑った。
「長谷部くんはそういうの、あんまり好きじゃないよね」
「そうだな」
光忠のそれに長谷部は頷く。
確かに聖誕祭など、どうだっていい。
居もしない神の誕生を祝ってどうするのかと思う。
・・・それに。
「俺は」
「うん?」
「聖誕祭よりも聖燭祭の方が大切なんでな」
「へ?え??」
きょとんとする光忠になんでもないと返す。
変なの、と光忠が笑った。
ふわりとしたそれは待雪草のようだな、と思う。
その花を捧げたところで彼は何の疑問も持たずに受け取るのだろう。
それがどういう意味を持つかも知らずに。
「あ、見てよ長谷部君。大きな月!」
光忠が指を差し、笑う。
綺麗なそれが指差す先には丸く大きな月が光忠を照らしていた。
「ああそうだな」
その手を引き、己の方に引き寄せる。
「え?長谷部く・・・」
「俺は、ずっと前から月が綺麗だったことを知っていたぞ」
「!」
「傾く前に手に入れられてよかった」
顔を近づけて笑った。
「もう、長谷部君たら・・・」
最初驚いた表情を見せていた光忠が金の目を細めてくすくす笑う。
「共に帰ろう。・・・光忠」
「・・・。・・・はい」
綺麗な笑顔で光忠が頷いた。
引き寄せて口付ける。

月が照らす、聖なる夜に。

幸せの象徴たる福音が耳に届く。


降誕祭。
神の誕生を祝し、愛する人との幸福を誓う日。


(そんな日に貴方と共にいられたらと、願う)

name
email
url
comment