貴族長谷部×没落貴族光忠♀ ~かいまく~

その姉妹を見つけたのは我が長谷部家主催の祝賀パーティーでのことだった。
「…つっまんないなぁ…」
ぶすくれた表情で言うのは俺の末弟、安定だ。
…まったく、こいつのためのパーティーだというのに。
「…誰のためのパーティーだと思ってるんだ」
「あたっ。…お兄様」
軽く手刀を食らわせてやると恨みがましく見つめてきたがすぐに顔を和らげた。
こういう人懐っこいところは少し羨ましく思う。
「…で?誰か良いのはいたか?」
「うーん、あんまり…。…あ」

「あれがいいな、僕」
にこっと安定が笑う。
指をさすなと言ってからその方を見た。
あれ、と差された指の先には二人の少女。
一人は膝丈の黒いドレスに肩までの髪を一つに結び赤い薔薇のコサージュを付けた少女。
もう一人は…。
「…ああ、いいな」
思わず舌なめずりをしてしまった。
…ああ、いけない。
悪い癖だな。
ロングの黒いワンピースドレスに身を包み、肩より少しだけ長い髪をふわふわと揺らした…黄色い薔薇のコサージュを付けた少女。
片目を前髪で隠し見える方のそれは金色に輝いている。
「…お兄様も好きだよね、っと」
小さく笑い、ぴょん、と安定が手摺を飛び越え仮面をつけた。
「今晩は、お姉さん!」
「…僕?」
きょとり、とした…女性にしてはハスキーな声。
柔らかく微笑む少女にどきりとする。
…思えば、一目惚れだったのだろう、これは。
「今日は僕の誕生会に来てくれてありがとう。良ければこの後一緒に」
「…ダメ!」
安定の言葉を遮ったのは隣の少女だった。
ふくりと頬を膨らませる様子は見た目より幼い。
「光姉ぇは俺の付き添いなの!そーいうのはお断りっ!」
「ふうん。じゃあ、君が付き合ってくれる?」
「はぁ?!なんで俺が!」
「いーからいーから!」
「ちょっと、まっ……!!」
声を荒げた少女に安定は笑って手を取った。
ぐいぐいと紅の少女が安定に手を引っ張られていく。
あっという間に雑踏に消えていった。
流れる穏やかなワルツ。
大方ダンスに誘いたかったのだろう。
スマートじゃないな、まったく…。
呆然と見送る少女の元に俺も仮面を着けて向かった。
「…弟が迷惑をおかけした」
「…君、さっきの子のお兄さん?」
くすくすと少女が笑う。
近くで見ると余計に可愛らしかった。
「こちらこそ、清…妹が失礼を」
「いや、弟は最初からあの娘を誘いたかったようでな」
「…そうなんだ?」
軽い様子で少女が笑う。
「失礼だが、お名前は?」
「…女性から先に名乗らせるのですか?」
微笑むそれはどこか事務的で、いっそうドキドキした。
「失礼。俺は長谷部国重。さっきのは末弟の安定という」
「貴方が今日の主催者さまだったんですね。それはこちらも失礼しました。私は長船光忠。一緒にいたのは妹の清光です。以後お見知りおきを」
「…長船……」
ワンピースドレスをつまみ上げふわりと少女…光忠が笑む。
長船…軍人貴族として名高い長谷部家とは違い、昔ながらの気品と礼儀を重んじる華族の一貴族、その長女。
「…あの?」
「……ああ、失礼。ところで、パーティーはいかがですか」
「…僕…いえ、私には少し窮屈に感じます」
「そうですか。…でしたら別室で…お茶でも」
彼女の手を取り、己の口許に持っていく。
一瞬びくりと背を揺らした光忠はやんわり笑ってそれを振りほどいた。
「すみません、妹がもう戻ってきますので」

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