純情少年と悪いお姉さん、後日談/ザクカイ♀

「忍霧、とって」
ふにゃりとカイコクが笑う。
ザクロの目の前には普段よりほっそりとした身体に烏羽色の下着を身に着けたカイコクが…いた。
なぜこんな事になったのだろう。
全く、頭が痛い。
「?忍霧?」
中々アクションを起こさないザクロを不思議に思ったのかカイコクが振り仰いだ。
大きな胸がふるりと揺れる。
「~~っ!!!」
かあっと顔が真っ赤になるのを止められない。
急いで洗面所へ行き、バスタオルを取って戻った。
「巻いていろ!!」
「っと」
投げ付けたそれはカイコクの腕にすぽりと収まった。
「…何で」
「かっ、風邪をひいたらどうする……」
顔を赤らめ、目線を外しながら言う。
そんなのは方便だ。
風邪をひかないように、なら室温を上げれば良い。
それをせずにタオルを寄越したのは、単純に目のやり場に困るからだ。
「…むっつりスケベ」
くす、とカイコクがいたずらっぽく笑う。
「…なっ、ちがっ、貴様…っ!」
「はぁい、はい」
しどろもどろになるザクロに、楽しそうにカイコクが言った。
そのまま素直にタオルを身体に巻き付ける。
「これで良いかい?」
「あ、あぁ」
「なら、さっさとやってくんな」
「分かっ、ている…!」
こくりと唾を飲み込んでザクロは前を見た。
幾分かほっそりとはしているが、これだけでは男子か女子かは分からない。
「…い、いざ…っ!」
気合を入れ、手を伸ばした。
「…ぁ…っ」
下着に触れるか触れないかの瀬戸際で、目の前のカイコクが小さく声を出す。
「なっぅ、ぉ変な声を出すな!」
「…ふふっ、だって、くすぐった…んくっ」
くすくす笑い、身体を揺らすカイコク…目の毒だ。
タオルに隠れてはいるがふるふると揺れる胸、触れそうになる度びくりと跳ねる白い腰、甘い声…その何もかも。
「…な、なぁっ、おし…ぎり…っ?」
「な、何だ!!!」
「…はぁっ…ふふ…誰か他の人、頼もうか?」
「…ぇ?」
涙目で振り仰ぐカイコクの言葉に思わず固まる。
…今、何と?
「さっきはいなかったが…路々さんに頼んでも良いし、女子がダメなら入出でも…」
「だっ、駄目だ!!!」
カイコクのそれを食い気味に拒否した。
「けど、お前さん、これ以上無理だろう?」
「やる、から…ここにいろ」
首を傾げるカイコクに何とかそう返す。
別に二人が悪い訳ではない、が、カイコクは裸同然だ。
部屋を出ればパカメラがいるかもしれない。
いや、パカメラなら兎も角パカ本人がいたらどうするのか。
カイコクは何故か自分の身に関しては少々うっかりしてることがある。
「そうかい?ならさっさとしてくんな」
「分かっている…っ!」
黒髪を揺らし、再び前を向くカイコク。
すぅ、と息を吸い込んで…勢い良く手を伸ばした。
「んっ、ぅ」
鼻にかかった声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
大体、裸など妹であるサクラで慣れている、はず…だ。
…まあ慣れていればこんなに苦労することもないのだけれど。
「と、取れ、た!!!」
なるべく薄目で試行錯誤していたが何とか取ることが出来た。
外す事が出来れば呆気ないもので。
「37分40秒。まあお前さんにしちゃ上出来だな」
「数えていたのか」
「まあまあ。…えっくしゅっ」
ムッとするザクロに笑ったカイコクが小さなくしゃみをした。
可愛らしいとも言えようそれは少し物珍しい。
「寒いか」
「…そりゃ。…邪魔したな、忍霧。ありがとさん」
柔らかく微笑むカイコクにザクロは目を見開いた。
「待て、貴様何処へ行く」
「何処って…自分の部屋に帰るんでェ」
「駄目だ、ここにいろ!!!」
ガシッとカイコクの肩を掴む。
途端にびくっと震えた。
「あぁっ、すまないっ!」
「それはいいんだが…何で自室に帰っちゃいけないんだ?」
理由を聞かせてくんな、とカイコクが不思議そうに首を傾げる。
「…。…貴様は、その格好で帰るのか」
「服がねぇからな」
「それが危ないと言っている。…シャワーなら貸してやるから」
「寝間着もないんだが」
「俺の服があるだろう!」
ザクロのそれにカイコクは目を見開き、小さく吹き出した。
「ふふっ…ははっ……!」
「…な、なんだ」
「…お前さん、意外と大胆なんだな」
「…はぁ?」
楽しそうなカイコクにザクロは混乱しきりである。
「…忍霧で、良かった」
「…何がだ」
「何でもねぇよ」
へにゃ、と幼く笑うカイコクに今度はザクロが首を傾げる番で。
まあカイコクが楽しそうなら良いか、とそれだけ思った。

シャワーの音を聞きながら悶々と数十分過ごした後、出てきたカイコクが髪からポタポタと雫を滴らせながら「忍霧、見てくんな。ちっと小さい気もするが…彼シャツだ」と嬉しそうに言う未来を…ザクロはまだ知らない。

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