純情少年と悪いお姉さん、後日談/ザクカイ♀

部屋に着いている簡易シャワー室から水を出す音がする。
それを聞きながらザクロは本日何度目かの深い溜め息を吐き出した。
自室のシャワー室から水音が聞こえるのにザクロは部屋にいる。
つまり、誰かが使っているのだった。
果たしてそれは誰かといえば。
コンコン、と戸を叩く音がしてザクロは緩慢にそれを開けた。
「やあ、ザッくん。遅い時間にすまないね。…カイさんはいるかい?」
「…奴ならシャワー室だ」
にこりと笑うのは風呂上がりだろうか、髪型の違うユズで、ザクロはふいと視線を逸らす。
そう、今ザクロの部屋のシャワー室にいるのはカイコクであった。
しかもなんやかんやあって女体化したカイコクである。
詳しく言い出すとキリがないし、頭痛がするのであまり思い出したくはなかった。
そのせいで今日散々だったのだから。
何はともあれ、下着が一人では外せないと部屋に来たカイコクを下着一枚で帰せないととりあえずシャワー室に突っ込んだのだった。
「んふー、やっぱりここだったかー。自室に居なかったからね、もしかしたらと思ったんだが…」
にまにまと楽しそうにユズが笑う。
…こういう表情をする彼女は大体悪い事しか考えていない。
「とりあえずー……明日はお赤飯かにゃ?」
「いらんっ!!!巨大なお世話だ!!」
ザクロの渾身たるそれにユズがにゃははー!と笑った。
「…で?路々森は何をしに来たんだ。俺を揶揄いに来たわけではないんだろう?」
「半分はそうさ。もう半分は…これだ」
小さく溜息を吐き出したザクロにユズが何か布の入った袋を差し出す。
「なんだ、これは」
「パンツだよ、カイさんの」
「パッんつぅぁ?!」
余りにもあっさり言うものだから普通に返しそうになり、思いっきり動揺してしまった。
「ザッくん、面白い声が出たな」
「やめろ!」
けたけたと笑うユズに顔を赤らめながら返す。
最初に出会ってしまったものだから何時までもこうして揶揄われてしまうのだ。
「あはは、いや、うん、すまない。まあ着け方の紙も中に入れてあるから、渡すだけで良いよ」
「…今回は着けてやらないのか」
笑うユズにそう聞く。
最初の時は女子が寄ってたかってカイコクを着替えさせていたのだ。
…まあだから一人では脱げない仕様になってしまったのだろうが。
「まさか。…君達がいちゃいちゃしている中に入っていくような無粋な真似はしないさ」
「路々森っ!」
茶化すようなそれに思わず大きな声を出す。
「真面目だにゃー、ザッくんは!じゃあまた明日」
笑い、ひらひらと手を振るユズを見送り、ザクロは扉を閉めた。
「忍霧?」
と、シャワー室の扉が開く。
「鬼ヶ崎……貴様、それ…っ!」
振り返ったザクロが見たのは…余りにも刺激が強いそれだった。
漆黒の髪からはポタポタと雫が落ち、VネックのTシャツからはたわわに揺れる胸の谷間が見える。
下はまだ履いていないのか白い足がスラリと伸びていた。
「ん?…あぁ。忍霧、見てくんな。ちっと小さい気もするが…彼シャツだ」
へにゃりと笑い、嬉しそうに言うカイコク。
…こんなにも幼かっただろうか。
「とりあえず髪を乾かして、下着を着けてこい貴様は!」
ユズから貰った袋をカイコクに押し付け、ザクロはベッドに向かう。
「およ、路々さん来てたのかい」
「それを届けに来たんだ」
ザクロのそれにふぅん、と言い、ガサゴソと袋を漁り始めた。
「…こりゃあ…お前さんの趣味かぃ?忍霧」
「…何がだ」
「フリフリ可愛いピンクの」
「違うっっっ!!!!」
真っ赤になって投げた枕はカイコクに当たることなく落ちる。
楽しそうに笑ったカイコクがまた洗面所へと戻った。
暫く後、タオルでガシガシと髪を髪を拭きながら出てくる。
今度はきちんとズボンを履いているようで、少しホッとした。
「…髪、痛むぞ」
「女子じゃあるめぇし、俺は気にしないんだが」
「今の貴様は女子だろう」
はぁ、と溜息を吐き出してザクロはドライヤーを手に取った。
「…乾かしてやるから来い」
「ほぉう?髪は平気なんだな」
「うるさいっ、いいから座れっ」
「へいへい」
クスクスと笑いながらカイコクがザクロの前に座る。
漆黒の髪がさらりと揺れた。
「忍霧ぃ?」
「…なんだ」
揺れる髪は男の時と大差がない。
…意識をすれば触れないからしていないだけだが。
「もう、いいんじゃねぇか?」
ふるふると揺れる髪は熱を帯びてはいるがまだ乾ききってはいなかった。
「まだだ。風邪を引いても知らない…」
「?忍霧?」
きょとんとして振り仰ぐカイコクにドライヤーを押し付ける。
「後は自分でやれ!俺もシャワーを浴びてくる!」
つっけんどんに言ってから大きな音を立ててシャワー室に入った。
荒っぽく服を脱ぎ捨て、お湯を出す。
…あんな顔、反則だ。
ザクロは、はぁあ、と溜息を掃き出して髪を洗い始めた。
赤らんだ肌はドライヤーの熱であると思うのにどうしてもそうは思えない。
忍霧、と笑う表情もいつもと大差はないはずなのに。
この気持ちは何なのだろう。
「…」
悶々としながらシャワーを浴び、身体を拭いて再び服を身につけて部屋に行くまで普段よりも時間がかかってしまった。
カイコクはといえば待ちくたびれたのか単に疲れたのかすっかり寝落ちていて。
人の気も知らないで、とまた小さく溜息を吐く。
「寝顔は…変わらないんだが…な」
すり、とその頬に指を触れさせた。
起きている時より幼い表情はザクロが好きなそれである。
「…鬼ヶ崎」
するりと触れた指を滑らせ、小さくその名を呼んだ…刹那。
「…えっち」
触れさせた指を掴まれ、抱き寄せられる。
見ればいたずらっぽく笑うカイコクがいた。
「きっ、貴様!起きて…?!」
「うとうとしてただけでェ」
楽しそうなカイコクの胸が当たる。
思考が全く回らなくなった。
「だからっ、煽るなと言ってるだろう!!先程も言ったが次はないと…!!」
「…構わねぇよ」
「…ぇ」
パニックが止まらないザクロにカイコクが微笑む。
「お前さんになら、構わねぇって…言ってるんだが」
「…貴様っ…!」
鈍い、と笑われて理性が崩壊しない男がいるのだろうか。
「知らない事は調べたくなる質なんでェ」
「…俺は実験道具か」
「…まさか」
優しく笑むカイコクは全てを包み込むようで。
「いくらの俺でもそんなリスク高いこたぁしない。自分の身は一等可愛いからな」
「…」
「お前さんなら優しくしてくれるんだろう?…忍霧」
笑うカイコクをザクロは…

肩を掴み勢い良く仰向けにする。→ハッピーエンド
そっと身を離し、ベッドから降りる。→デプレーションエンド

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