純情少年と悪いお姉さん、ハッピーエンド/ザクカイ♀

「お前さんなら優しくしてくれるんだろう?…忍霧」
笑うカイコクの肩を掴み、ザクロは勢い良く仰向けにする。
「なにす…っ!」
「貴様は!俺が好いた相手に煽られて!何も思わないと思ったのか?!!」
表情を歪めるカイコクに思わず大声を出した。
途端に漆黒の瞳が見開かれる。
ザクロだってずぅっと我慢してきたのだ。
「なん…っ」
「確かに俺は女性が苦手だ!女性に触ったり、近づいたりするのは抵抗がある。だがな!それより以前に俺は貴様を好いているんだ!女性の身体になったとて、好いた相手に迫られて煽られて平然でいられるほど俺は出来ていないんだぞ?!」
呆然とするカイコクに言葉が止まらない。
止める気なんて、毛頭なかった。
「男だから俺が貴様を好きになったとでも?俺が、友情の上が愛情だと錯覚するような阿呆とでも思ったか、鬼ヶ崎」
「おし、ぎり」
おろおろとする様子は大変可愛らしいそれだけれども、はっきりと伝えなくてはならない。
きっと、伝えなければまた逃げてしまうだろうから。
正面切って言わなくてはならないのだ。
好きだという己の気持ちを。
愛しているという、言葉そのものを。
言わなくては伝わらない。
こと、この鬼ヶ崎カイコクという人物に於いては顕著だ。
飄々として、自分の気持ちも見せなければ相手の気持ちを見ようともしない。
それに腹はたつが、ならばこちらとてやりようがあった。
「友情と愛情は別物だ。それは、貴様が女体化してはっきりした。俺は貴様が男だろうが女だろうが関係なく好きだ」
「も、ぅ…止してくんな」
腕で顔を隠そうとするカイコクのそれを取り上げる。
目元が紅く、どうしたら良いのか分からない、といった顔だった。
「っ、忍霧!!」
「駄目だ、俺の気持ちを聞くまでは赦さない」
声を荒らげるカイコクにきっぱりと言う。
普段のザクロとは違う様子にびくりと怯んだその隙を突いてザクロは優しく囁いた。
「俺は、鬼ヶ崎カイコクという人物を好きになったんだ。…男だからどうとか、女だからどうとか関係ない」
「っ」
「友人は作るものではなく出来るものだ。…そして、恋人は出来るものではなく、なるものだ」
真摯に言葉を紡ぎ、カイコクにそっと触れる。
こんなにもドキドキしているのを、目の前のカイコクは知っているのだろうか。
「俺は、貴様とは恋人になれているつもりだった。…貴様はどうなんだ、鬼ヶ崎」
「…ここで聞くのは卑怯なんじゃねぇのか……」
問いかけるザクロにカイコクは小さな声で言った。
そして。
「?!」
ふいに触れる、マスク越しの口唇の感触。
目を見開くザクロを、カイコクがぶすくれた様に見つめる。
「…お前さんだから」
「へ」
「お前さんだからこんな行動を取るんだろが。俺が、好きでも何でもねぇ相手に、躰を許すとでも?男の時だって、今だって、忍霧だから良いんだ」
鈍い、と言われてしまえばザクロもそれまでで。
「…鬼ヶ崎」
「もう、いいだろう?さっさと解放してくんな」
ふい、と目線を逸らすカイコク。
そのさらりと揺れる黒髪から覗く耳は真っ赤に染まっていた。
「貴様は、躰を許す相手を好きになるのか?」
「っ、違う!!心から、その……想い、合うから、躰も許すに決まってる、だろ……」
ザクロの意地悪なそれに、勢い良く答えていたカイコクの声が、段々と小さくなる。
元々、ストレートな言葉は苦手なカイコクだ。
今だって相当恥ずかしいに違いない。
だからこそもっと言わせたくなる。
いじめたくなる。
今まで散々遊ばれてきたのだ。
少し意地悪したくらいではバチは当たるまい。
「…ったく、何を言わせて…」
「想い合うとは?…俺は貴様の気持ちが知りたいんだが」
「ぅ、ぇ?!」
びくんっとカイコクが震えた。
まさかこれ以上来るとは思ってなかったらしい。
「忍霧…?」
「俺は、好きだと貴様に伝えた。貴様はどうなんだ」
「…俺だって、同じ…気持ち、でェ」
カイコクが絞り出したのは、恐らく最大の好意の気持ち。
だが、それで終わらせたくはなかった。
「俺は鬼ヶ崎自身の言葉が聞きたいんだが」
「……っ!…この、ムッツリドS」
「なんだ、その悪口は」
カイコクの渾身の悪口であろうそれに思わず笑う。
こんなにもカイコクが振り回されているのは珍しかった。
「少しは自覚しろ。貴様は俺に愛されていると。貴様の行動一つ一つが心配だし、ハラハラする。その理由は何のことはない、好いているからだ」
「…」
「心配する、こちらの身にもなれ。いいな」
ぽふりとカイコクの髪を撫でる。
少し驚いたようにこちらを見上げるから、思わず首を傾げた。
「…なんだ?」
「…いや、女なのに触るの平気なんだな、ってな」
「好きな相手に触れなくてどうするんだ」
何を今更、とザクロは呆れたように言う。
だが、それを聞いたカイコクはぱちくりと目を瞬かせ、花が咲くように笑った。
「…おい?」
「…ったく、お前さんにゃ敵わねぇな」
くすくすとカイコクが笑う。
「はぁ?」
その返答にザクロは困惑するしかなかった。
だが。
「…ちょっ……?!」
驚くザクロの首にするりと白い腕が伸びる。
「鬼ヶ崎?!」
「俺にここまで言わせた責任は取ってくんねぇのかい?…忍霧?」
蠱惑的に微笑み、抱きついてきた。
「お、おい!だから、煽るなと…!」
「…俺をこんなにも想ってくれる相手に、全てを捧げたいと思うのは…悪い事かねぇ?」
慌て、身を離そうとすればカイコクは少しぶすくれる。
それは幼い子どものようで。
「俺にだって意地はあらァ。…男の身体でだって女の身体だって、お前さんを受け止めたい。…お前さんの、一番になりてぇんだ」
ふわりと微笑むカイコクは若干震えていた。
カイコクだって怖いのだろう。
女性の身体で致してしまったら、どうなるのかなんて、誰も分からないのだから。
「…自分が一等可愛いんじゃなかったのか」
「なんでェ、引き摺ってんのかい?」
意地の悪い表情をするカイコクの、頬に手を添えた。
乱暴にマスクを外す。
「…。…どうなっても知らないからな」
「こちとら、一日そのつもりでェ」
挑発的とも取れる言葉を吐く綺麗な口唇を、喋るなと意味を込めて塞いでやった。
「…んんぅ、ふ……」
鼻から抜ける、甘い声。
唇を舌でなぞり、薄く開いたそこから捩じ込む。
カイコクは、上の歯の裏を擽られるのが一番弱かった。
今だってそこばかり責め立ててやれば、息も絶え絶えに縋りついてくる。
まったく、先程の勢いは何処へ行ったのやら。
「…鬼ヶ崎?」
「…ふぁ…は……」
唇を離し、とろんとするカイコクを呼ぶ。
ぽやぽやとこちらを見るカイコクはまるで寝起きの様だ。
あれだけ大口を叩きながら、意外と快楽には弱いのである。
そこは女体化したとて変わらないらしかった。
「可愛いな、鬼ヶ崎」
「…っ!」
くす、と笑えば顔を真っ赤にさせる。
普段があまり感情を見せないから、何とも珍しかった。
自分だけが知る秘密だと思えば、何だか嬉しくなる。
「そういうの、やめてくんねぇ…んぁっ!」
ブスくれるカイコクの、服の間から見える入れ墨に舌を這わせた。
途端に可愛らしい声を出す。
いつもなら黒い着流しを崩し、さんざ虐めてやるのだが、今日はザクロの服だ。
ちらりとしか見えないから仕方がなくがばりとTシャツを捲り上げる。
「?!!貴様…っ!」
ぷるん、と飛び出すおっぱいに耐性がなく、ビクついたのはまあ想定内だ。
だが、これは。
「な、んで…こんな……」
「…聞いたじゃねぇか。ピンクのブラはお前さんの趣味かい、ってな」
顔を紅くさせるザクロに今度はカイコクが悪い顔をする番だった。
カイコクの大きな胸を包んでいたのは可愛らしいピンクとレースのふんだんに付いたブラジャーだ。
ただそれは、ブラジャーというには明らか布面積が足らなかった。
「…ちなみに下も、揃いだ」
ちらり、とカイコクがズボンを少しだけ下ろす。
見えたのはピンクとレースの紐パンで。
…持ってきたユズにどんな感情を向けたら良いのか分からなかった。
「だからっ、煽るなと……」
「わざとだ、って言ったら?」
カイコクが笑う。
華やかに、艶やかに。
可愛らしく、無邪気に。 
…全く、本当に敵わない。
「…優しくしてやれないぞ」
「何時だってお前さんは優しいさ」
微笑むカイコクは何かを確信しているようだった。
「全く、貴様は……」
「…ふふ。…なぁ、忍霧」
はぁ、と溜息を吐き出すザクロにカイコクが笑み。
ザクロに向かって両腕を…広げた。
「…きて?」
こてん、と首を傾げられたらもう止めるものも何もなくて。
「…鬼ヶ崎…っ!」
「ひゃんっ、ゃ、あ…!」
響く甘い声は脳天に染み渡るようだった。
「おし、ぎりぃ…も、もぅ…ぃや…!」
「優しくしてほしいんだろう?」
「あ、あぁあ……っ!!だって、やぁ…っ!ひゃぁあ…っ!」
「我慢しろ。とことん、甘くしてやるからな…!」
甘いのは苦手って知ってるくせに、とグズグズと泣くまで前戯を施し、ぐったりとした躰を声が嗄れるまで散々貪り尽くして…次の日ほんの少し不機嫌なカイコクにあやまり倒したのは…また別のお話。

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