○○しないと出られない部屋(カイコク受け)

ピーンポーンパーンフェー♪
『ただいまより、エクストラステージ○○しないと出られない部屋、開始でございます』

「ふっざけんな!」
間抜けな擬音とパカの無感情な声にブチ切れたのはアンヤである。
大概こういう時最初にキレるのは彼だ。
…尤も、彼が怒りっぽいだけかもしれないが。
「なっんだよ○○しないと出られない部屋って!意味分かんねぇ!大体なんだこの」
「…『鬼ヶ崎カイコクにキスしないと出られない部屋』、ですか」
アンヤのそれを引き継ぐのはアカツキだった。
看板を読み上げ、実に楽しそうである。
「…地獄でしかねぇだろ、ヤローばっかでよ」
「女性陣がいてもそれはそれで地獄じゃありませんか?」
嫌そうに言うアンヤにアカツキが首を傾げた。
そう、ここにいるのは男子メンバーのみ、女子はいないのである。
キスをするのもされるのも男子、という果たしてここは地獄なのだろうかという空間が広がっていた。
「…鬼ヶ崎」
「……かっんべんしてくんな……」
ザクロが部屋の隅に隠れるカイコクに呼びかける。
特に、当事者であるカイコクは、あのザクロが憐れんでしまう程に拒否をしていた。
自分はやる方だが、やられる方は溜まったものではないだろう、とザクロやアンヤは内心手を合わせる。
「…つか、女子は?シアター待機か?」
『いえいえまさか。女性陣は別の部屋を攻略していただいております』
アンヤのそれにパカが答えた。
その返答に今度はザクロが首を傾げる。
「…大丈夫なのか、それ」
同じようなゲームである場合、カリンやユズは問題なさそうだが…中学生のヒミコがいるのだ。
倫理的に問題になりそうだが。
…と。
『ご心配には及びません。女性陣は…』
「女性陣は?」
『蟹を食べて頂いております』
「厚遇じゃねぇか!!!」 
アンヤのツッコミが響く。
カイコクの、「俺も女子になる…」という弱々しい声にザクロは、やめろ、と言った。
「貴様が女性になった所で現状は打破されないんだぞ」
「そうですよ、カイコクさん!腹括ってください!」
「…他人事だと思って」
ザクロとアカツキの言葉にカイコクがブスくれる。
いつも飄々としているから、彼のこういう一面は非常に珍しかった。
『ワタクシも参戦したいところを監視役の役目を果たすべく我慢しているのですよ?何たる、この、CVつだけんの無駄遣い』
「メタい話ししてんじゃねぇよ!!!」
『…ルール説明と参りましょうか』
鋭く突っ込まれるアンヤのそれを軽くスルーし、パカが言う。
曰く、扉には4つのロックがかかっており、一人がカイコクにキスをする度に外れる仕掛けなのだそうだ。
キスする場所はどこでも良く、4人がカイコクにキスをし、ロックをすべて解除出来ればゲームクリアなのだという。
それでは、ご武運を、という言葉を最後にパカのそれがぶつんと切れた。
「…ったく、悪趣味だな…」
「まあ、グチグチ言っても終わりませんから」
文句を言うアンヤにアカツキが言う。
「ね、カイコクさん」
「…う……」
にっこりと笑いかけられ、カイコクがたじろいた。
嫌なものは嫌という彼だが正論を突きつけられ、言葉にならないらしい。
「…あーもー、覚悟決めろ、鬼ヤロー!」
「いや、そうは言っても…おわっ?!」
「こっち来い!」
珍しくグズグズするカイコクの手を引っ張ったのは、痺れを切らしたアンヤだった。
ぐいと手を掴んで引き寄せ、驚きに目を見開くカイコクの…目蓋にキスを落とす。
と、同時にカシャンとロックが開き、赤いランプが点った。
「おお、開きましたね!」
「…何で目蓋だったんだ?」
テンションの高いアカツキと、冷静に聞くザクロ。
「あ?…昔、俺が泣いてたらシン兄ぃがやってくれたんだよ」
簡素なそれに、全員が「額の間違いじゃあ…」という言葉を飲み込む。
藪は突くものではなかった。
「おら、オレは済んだぞ」
文句あっか、とメンチを切るアンヤに苦笑しながら、はい、と手を挙げたのはアカツキである。
「次は俺の番ですね」
ニコニコと笑みを浮かべ、アカツキは、失礼しますとカイコクの手を持った。
「っ!」
ちゅ、と手首に落とされるキスは合格を判定したらしく、カシャンという音と水色のランプの点灯で知らせる。
「大丈夫みたいですね」
「オメー、それ、手の甲とかじゃねぇの?」
無邪気な笑顔でカイコクを見上げるアカツキに言うアンヤ。
「えー、そうでしたっけ?忘れてしまいました」
笑いながらあっさり言うから、アンヤもそれ以上は言わなかった。
時々、アカツキの目が笑っていても怖くなる時がある。
そこに突っ込むべきでないと本能が告げていた。
「…あー、次は?」
代わりに、他のメンバーを見渡す。
スッ、っと後ろの方から手が挙がった。
「……次は僕」
のそり、と動くのはマキノである。
いたのか、と全員が思った…その刹那。
「ひゃ、ぁ?!」
カイコクの口から聞いたこともないような素っ頓狂な声が出た。
首筋を押さえて真っ赤な表情で振り返っているから、首筋にキスをされたのだろう。
「な、ななな……!!」
「…開いたよ、カイコッくん」
言葉を失い珍しく動揺を隠せない彼に淡々とマキノが告げた。
いつの間にかロックのランプは紫を点滅している。
「…やるな、マキノ」
「…流石はマキノさんです…!」
ヒソヒソとアンヤとアカツキが言い合う隣にマキノが腰掛けた。
「…次はザクロ君。…頑張ってね」
「…あ、あぁ」
マキノの予想外のそれに固まっていたザクロがハッとしたように動き出す。
そういえば自分がラストだった。
「早よしろ、マスク野郎」
「頑張ってください、忍霧さん!」
「わ、分かっている!」
二人のそれに返事をし、カイコクの前に立つ。
普段なら絶対揶揄ってくる彼が固まっていた。
はぁあ、と溜息を吐き出し、マスクをぐいとずり下げる。
「…おお」
「ゲームクリア、ですね!」
「…頑張った」
白いランプが点滅し、ドアが開いた。
三人が出ていった後で、二人だけが残る。
「…意味は、分かるだろう。鬼ヶ崎」
「…っ!」
「…今晩、部屋で待っていろ」
カイコクの着物の合わせから手を離し、ザクロはマスクを戻して部屋を出た。
扉の開いたそこに、顔を真っ赤にし、肩口を…自身に入った入れ墨を手で押さえたカイコクだけがぽつんと立ち竦んでいて。
…カイコクは知っていた。
身体の場所に遺されるキスにどんな意味があるのかを。
カイコクは知ってしまった。
…彼らがどんな風に自分を見ているのかを。
「…勘弁してくんな……」
彼の小さな本音は、誰にも聞かれず、部屋の中に霧散した。

(余談)
Q「アルパカ君なら、カイさんのどこにキスをするんだい?」
A「ワタクシでしたら、そうですねぇ、逆に鬼ヶ崎様からワタクシの足の甲にキスをして頂きますかね」

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