○○しないと出られない部屋、アンカイの場合(カイコク受け)

カシャン、と扉が開き、誰かが入ってきた気配にアンヤは振り向きもせず、遅え、とだけ言った。
「…は?え?」
困惑しきり、といったその声にミントガムを風船のように膨らませる。
それはそうだろう。
先程の、キスしないと出られない部屋、はクリアしたのだから。
また新たな部屋に通されるなど…不思議極まりないし、他の3人がいないのも部屋の仕組みを知らないカイコクにとっては不思議でしかないはずだ。
「…駆堂、だけか?他の奴らは…」
「…んだよ、不満か?」
近づいてきた彼、カイコクにそう言ってやれば「そうじゃねぇ」と小さく笑った。
その笑みは普段の彼のそれで、アンヤは小さく息を吐き出す。
「ったく。オメーが来んの遅えからヘンタイ家畜野郎の説明終わっちまったじゃねぇかよ」
「…パカの?」
「そーだよ」
ほら、と顎で扉の上を示せば、カイコクが釣られて上を見上げた。
「…ん、な……っ」
そうしてそのまま固まる。
扉の上には【鬼ヶ崎カイコクにキスした場所を責めないと出られない部屋】とあった。
「…悪趣味にも程があらァ……」
「オレもそれは同意する」
はぁあ、と深い溜息を吐き出すカイコクにアンヤも頷く。
全く本当に趣味が悪い。
「どーいう原理かは知んねーけど、アカツキもマキノもマスク野郎も別の部屋にいるんだってよ。オレらがクリアしたら、オメーだけ次の部屋に行ける。全員分クリアしたら今度こそ部屋の外だ」
「…信用出来んのかい、それは…」
「グズグズ言ってたって終わんねーだろーが」
嫌そうなカイコクにそう言ってやった。
何度もゲームを行ってきたから分かる。
これは、やらねば終わらないのだ。
「…そりゃァそうだけど…っと…」
カイコクもその言葉に諦めたのか部屋の真ん中に置かれていたベッドにぽすりと腰を掛けた。
「あ?」
「駆堂は目蓋だったか。早くしてくんな」
不可解なそれに疑問で返せば、カイコクがにこりと笑う。
潔が良いとも言えるその態度にアンヤは自身の頭をガシガシ掻きながら近づいた。
カイコクは恐らく、アンヤが性的なあれこれに疎いと舐めきっている。
目を瞑るカイコクからは「駆堂だし、大丈夫だろ」という安堵が見て取れた。
何となくムカつく、と思いながらギシリ、と音を立てベッドに乗り上げる。
目潰しにならないようにとそっと触れた。
責めろ、なんてどうやれば良いか分からないから指の背で撫ぜたり優しくくるくると擦ったりする。
「…ふふ、っ」
「んだよ、笑ってんじゃねー…」
クスクス笑うカイコクに、顔が赤くなるのを感じた。
「すまねぇ。…お前さんが意外と優しく触るから、つい」
「…っ」
「もうちょい大胆に責めてくれてもいいんだぜ?駆堂」
「テメ、鬼ヤロー」
「なんなら、おにーさんが教えてやろーか?ん?」
楽しそうなカイコクに、思わず、目ェ開けろ!と怒鳴る。
随分とまあ余裕なそれに腹が立った。
アンヤとて一端の男子高校生である。
あまり性的なそれに興味がないことを差し引いたってカイコクはアンヤを子ども扱いし過ぎなのだ。
「?なんでェ」
もう終わりかと言わんばかりのきょとりとした声と共に開かれたそれは、黒曜石の如く煌めいていて。
意外と睫毛長えんだな、などとどうでも良いことを思った。
「くど…。…っ?!」
綺麗な瞳は食べたらどんな味がするんだろうとか馬鹿なことを考えていたらつい口を開けてしまっていて、カイコクがびくりと体を揺らす。
「ひ、ぅ」
食わねぇよ、と代わりにその上をべろりと舐め上げた。
小さく息を漏らすいつもの彼とは違っていて何かがアンヤの背をぞくんっと駆け抜ける。
…途端、カシャンという音と共にロックが解除されました、という無機質な声が響いた。
「…開いたな」
カイコクはそれを聞き、アンヤを押しのけてベッドを降りようとする。
が、それをアンヤが押し留めた。
「…おいっ、なにすんでェ…!」
「…もう一回、やらせろ」
声を荒らげるカイコクにそう言う。
怯んだその隙にペロリと舐め上げた。
「んぅ…っ!」
鼻にかかったような甘ったるい声と嫌そうな…恥ずかしそうな表情にもやもやした感情が拡がる。
これが何なのかさっぱり分からなかった。
カイコクに抱く、初めての感情にアンヤは苛立つ。
ただ、もっとそれが見たいと…他の奴には見せたくないとだけ、思った。



それが、恋だということなんて…アンヤはまだ知らない。

name
email
url
comment