○○しないと出られない部屋、ザクカイの場合(カイコク受け)

カシャン、と無機質な音がしてから随分と経った。
現れるはずの人物は未だ現れず、ザクロは、はぁ、と溜息を吐き出す。
嫌だとごねているのだろうか。
それとももっと別の理由だろうか。
例えば…そう、パカに連れさられた、とか。
(…ないな)
一瞬過ぎったそれをすぐさま振り払った。
パカはゲーム中、そのプレイヤーに対して何かをしでかすことはない。
少なくとも、今まではそうだった。
…と。
「…」
「…鬼ヶ崎!」
少しフラついた様子で扉から出てきたカイコクに、ザクロは慌てて近寄る。
「遅いから心配したんだぞ。何かあったのか」
「…何でも、ねェよ」
詰め寄るザクロに答えるそれはいつも通りに見えた。
だがザクロには分かってしまう。
カイコクが、決していつも通りのそれではないと。
「…。…さっさと終わらせて、こんな部屋早く出よう。他の三人も待ってる」
「…っ」
「女子もとっくに出てしまっているかも…。…っ?!鬼ヶ崎?」
言葉を紡いでいれば、表情を歪めぽすりと己の肩に顔を埋める彼に、ザクロは驚いた声を上げた。
まるで弱音を吐くかのようなそれは滅多に見られるものではない。
「…どうしたんだ」
「…。…お前さんは、嫌がると思っていたが」
「…は…」
小さく紡がれる言葉に、ザクロは思わずぽかんとした。
それはつまり。
「…貴様は、俺が入出や駆堂、マキノ君に嫉妬するとでも?」
「…っ」
「ゲームの一環とはいえ、貴様にキスをし、その場所を責め立てた三人に嫉妬するような人間だと、そういうのか?」
「…ち、がう」
純粋な疑問として聞いたのだが、どうやらカイコクはザクロが怒っていると思ったらしい。
珍しくボソボソと小さな声なものだからすっかり調子が狂ってしまった。
「…。俺は、怒ってるわけじゃない。普段の貴様ならその違いくらい分かるだろう」
「…」
「…鬼ヶ崎」
努めて優しい声を出すザクロにカイコクはやっと口を開く。
「…嫌、だった」
「…何がだ」
「…お前さんが…」
カイコクがそこまで言ってまた黙ってしまった。
だから、続きの言葉を紡ぐ。
「…俺が、三人を…もっといえばパカを止めなかったこと、か?」
そう聞くザクロに、カイコク逡巡した後、こくりと頷いた。
「貴様なら嫌なものははっきり嫌だと言うと思っていたが」
「…あの状況で、俺が嫌だと言えると思うってェのかい」
「俺だって本音は嫌だった。だが、外に出るためには仕方がない。俺が嫌だとごねたところで状況が変わるわけ無いだろう」
「…そんなのは、分かってる」
「鬼ヶ崎。俺が貴様のどこにキスをしたか覚えていないのか?」
存外に我儘で、可愛い所がある年上の恋人に、ザクロはマスクを外しながら言う。
どさりとベッドに突き飛ばし…カイコクの着物の合わせを肌けさせた。
「…っ、忍霧…?」
息を詰まらせ、それでもゆっくりと見上げるカイコクにザクロは小さく笑ってみせる。
身動ぐカイコクを押さえ込み、そっと肩口にキスを落とした。
「教えておいてやる。俺が、お前を想う…その強さを」
「…ん、ぅ!ゃ…」
ぱしっと嬌声が出そうになるその口を、カイコクは慌てたように塞ぐ。
普段なら止めるそれを無視し、ザクロは肩口に入った入れ墨をちろちろと舐めた。
「…は、ぅ…っ!おし、ぎりぃ…っ!」
幼子の様にカイコクが首を振る。
さらさらと綺麗な髪が揺れた。
途端、無機質な合成音が『全てのロックが、解除されました』と告げる。
「…開いたな。行くぞ、鬼ヶ崎」
「…ぁ…ぅ、え…?」
まさかこんな所で止められると思わなかったのだろう、はふはふと荒い息を吐き出しながら困惑の表情を浮かべるカイコクの、頬を撫でた。
「…んっ」
「俺は、鬼ヶ崎の可愛らしい表情も、可愛らしい声も、他の誰にも見せてやるつもりはない」
「…?!…お前さん、俺みてぇな男捕まえて可愛いはねぇだろ、う…」
驚いた表情を赤く染め、カイコクが言う。
それのどこが可愛らしくないんだ、と思いながらザクロはマスクを戻した。
「早く出よう、鬼ヶ崎。…ゲームを終わらせて、そうしたら」
続きを耳元で囁き、固まってしまったカイコクを立ち上がらせる。
しっかりと手を繋ぎ…ザクロはカイコクと二人、外へ出た。

肩口へのキスは確認、そして愛寵という意味がある。
自分の事を粗雑に扱う彼に分からせなければならなかった。
ザクロがカイコクをどう思っているかの再確認と、大切に愛されるという…言葉の重みを。
「今晩、覚悟しておけ。しっかり身体が覚えるまで教えこんでやるから」
その言葉通り、きっちりとザクロの愛を刻み込まれるカイコクが赦しを乞うまで…後数時間、だ。

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