○○しないと出られない部屋、おまけのパカカイの場合(カイコク受け)

映像を再生し終わり、パチン、とパカは電源を切る。
流れていたのは○○しないと出られない部屋、というエクストラステージのゲームを行った際の映像だ。
そんなこともありましたね、と他人事のように…勿論他人事なのだけれど…思いながらパカはある部屋に向かった。
「…っ」
「おはようございます、鬼ヶ崎様。…いえ……」
カイ、と部屋の中にいた彼に向かって囁く。
ぼんやりとベッドに腰かけていたのはあの鬼ヶ崎カイコクであった。
そう呼ばれるとは思わなかったのだろう。
少し驚いた顔をしたカイコクがそれを柔らかく破顔させた。
その表情は仲間たちにも見せたことがないほど、酷く幼い。
本当に止まっているのだな、と思った。
…あれだけパカを嫌っていた彼が何故信頼しきった瞳で笑うのか。
それは少し時間を遡る。
見るな!という声が響いたのは果たして誰のそれだったか。
パカメラのフラッシュをもろに浴びた彼らは一様に悪夢を魅る。
何故連れて行ってくれなかったの、何故置いて逝ったの、何故俺じゃなかったんだ、なんで私だけ守るの、どうして僕を見てくれないの、愛されないのは何故…彼らの悪夢が辺りに霧散した。 
パカメラの目はストロボ機能がある。
そのフラッシュは悪夢を魅せると言われていた。
「…ぅ……」
初めに悪夢から覚めたのは誰だったろうか。
「流石は1億再生を突破された精鋭。物ともしませんね」
夢と現を彷徨う彼らにパカはゆったりと声をかけた。
「…ふ、ざけやがって…!」
「…なんの、つもりだ…!」
悔しそうな声を上げるのはアンヤとザクロだ。
よく対立する二人だが血気盛んなところはよく似ている。
分が悪い、とパカは静かに言った。
「ワタクシ一人に対して7人はあまりにも不公平。一人、味方をお願いしたいのですが」
そう告げ、ぼんやりと立ち尽くすカイコクに手を伸ばす。
「貴殿は来て頂けますね。…鬼ヶ崎様」
「…」
濁った黒曜石の瞳をゆっくりこちらに向け、カイコクが足を進めた。
おい!という鋭い声はアンヤとザクロ、どちらだっただろう。
「…カイコクさん?」
アカツキの声が響いた。
「…お、れは……」
緩慢なそれは何か迷っているような声音を滲み出す。
「…カイ、カイコク」
「…っ」
「こちらに来なさい。そうすれば…愛してあげる」
「…あい…して」
パカの言葉を反芻し、カイコクは今度こそ振り返りもせずこちらに来た。
「待て、鬼ヶ崎!!!!」
「鬼ヤロー何考えてんだ!!このボケ!」
意地でも止める、といった二人が…カイコクの番傘に弾き飛ばされる。
「駆堂さん!忍霧さん!!」
「やだ、なんで…どうして」
ヒミコの悲鳴と呆然としたようなカリンの声。
それを護るように立ち尽くすマキノがパカを見上げた。
「パカメラの目に搭載されたストロボには悪夢を魅せるという機能があります。一度目はご自身が一番見たくない記憶を映し出し、二度目は…」
従順な下僕に成り下がったカイコクがにこりと笑う。
その綺麗な目からは光が消えていた。
「ワタクシを、主だと思い込ませることにございます」
「…?!」
パカのそれに全員が息を飲む。
「…証拠は、ありますか」
固い声のアカツキにパカはもちろん、とカイコクを近くに呼び寄せた。
疑いもなくやってくる様子で分かろうものだが、パカは敢えて彼らに見せつける。
もう彼が戻らないということを。
「カイ、足の甲にキスを」
命じたそれはあまりに残酷だった。
足の甲へのキスは隷属を意味する。 
それは…つまり。
「やめろ…やめるんだ、鬼ヶ崎!!!!!」
悲痛なザクロの声は届かなかった。
カイコクはなんの躊躇いもなく跪き、靴の真ん中にキスを落とす。
「お分かりですね、皆様。それでは、また後ほど」
パカはカイコクを立ち上がらせ、その場から去った。
光を、希望を失った筈のカイコクが、苦しそうにすまない、と呟いたのは…気のせいだったろうか……。
「鬼ヶ崎様」
ベッドにいる彼に触れる。
柔らかく微笑む彼の綺麗な瞳はすっかり濁ってしまった。
「…なあ」
「はい?」
かけられる声は少しばかり幼く聞こえる。
きゅ、とスーツの裾を引きカイコクは言った。
「…なまえ…よんでくんねぇの?」
幼いそれはまるで愛されたいと必死に叫んでいるようで。
「カイ、カイコク」
ころりと押し倒し、腿にキスを落とす。
無邪気に笑う、彼の声だけが広い部屋に響いた。

(果たして囚われの姫の前に現れるはナイトか、ナイトメアか)

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