ハロウィンなので高校の制服着てください!ピロートーク ザクカイ

出しっぱなしにしていた水道の蛇口をきゅ、っと止め、ザクロははぁ、と溜息を吐き出した。
二人が着ていた制服を干し、お湯で湿らせたタオルを持ってザクロは部屋に戻る。
「…鬼ヶ崎」
「…ん、ぅ……」
その呼びかけに気怠げな声を上げるカイコクを見、何度目かの『やり過ぎた』が頭を過ぎった。
「…。…すまなかった」
「…まだ…気にして…んのかい?」
謝るザクロに、いつもの柔らかい声を掠れさせ、カイコクが笑む。
緩慢に起き上がって眼鏡を外し、机の上に置いた。
「…お前さんが…あそこまで盛り上がんのも…珍しいじゃねぇか」
「…う……」
小さく首を傾げるカイコクの身体を拭いてやろうとしていたザクロの手が止まる。
「?忍霧?」
不思議そうなカイコクのしなやかな身体にはあちらこちらに紅い華が舞っていた。
先程洗った制服はお互い酷い有様だったし、くったりと布団に投げ出されたカイコクは散々たる様相を呈していて。
それを見て初めて『やり過ぎた』と思ったのである。
ザクロがこの部屋に入ってから半日は経過しているのではなかろうか。
食事も取らずに何を、とも思う。
思うが、高校時代の制服を着たカイコクがあまりにも可愛かったから。
普段は見せない表情で、『ザクロくん』なんて呼ぶから。
すっかり止まらなくなってしまった。
「…すまない」
「…しーつーこーい」
何度目かの謝罪をするザクロにカイコクが小さく笑いその頬を引っ張る。
「ひゃひひゅゆ!」
「加減知らねぇな、とは思ったけど怒ってはねぇよ。…まあ、悪くはなかったし…な」
声を上げるザクロから手を離し、カイコクが笑った。
「…本当か」
「本当に嫌なら殴り飛ばしてるところでぇ」
「…物騒だな、貴様は」
「物騒はお互い様だろう」
クスクスとカイコクが笑い、ころんと寝転がる。
「…来な、忍霧」
両腕を広げて呼び寄せるから、ザクロは小さく溜息を吐き出してその身を任せた。
ぎゅっと抱きしめられ、トクトクという音が耳へダイレクトに響く。
「なぁ…何がそんなに良かったんでぇ?」
「…聞くのか、それを」
純粋な疑問たる言葉にザクロは少しだけ顔を赤く染めた。
自分がどうして興奮したか、など、しかもその相手に曝け出すことほど恥ずかしいのを目の前の男は知らないのだろうか。
「制服も…見慣れなくて新鮮だったし…眼鏡も…良かったんだが」
「だが?」
「一番は…その、貴様が…鬼ヶ崎先輩って呼んだ時に恥ずかしがったから…」
「…お前さん、本当に…なんていうか…むっつりだな…」
告白させといて少し引くカイコクに、ザクロはムッとする。
「貴様が聞くからだろう!」
「あー、はいはい悪かった」
へら、と笑うカイコクはすっかりいつもの調子だ。
「そういう貴様はどうなんだ」
「へ、ぇ?」
「悪くなかった、と言っていたが」
「…ぅ……」
ザクロのそれに、途端に顔を赤くするカイコクが可愛らしい。
いつもこうなら良いのに、と思った。
「鬼ヶ崎?」
促し、顔を覗き込めばしぶしぶ、といったようにカイコクが口を開く。
「……ザクロくん、って呼んだ後のお前さんが…その…存外強引だったから…」
「…うん?」
聞かされる言葉に耳を疑った。
まさか…少し強引なくらいが好きだなんて。
「っ、忘れな、忍霧!!」
ふいっとそっぽを向くカイコクの耳が赤く染まっている。
「…嫌だ、忘れない」
「…っ!忍霧?!」
きっぱり言うザクロに、カイコクがほんの少しムッとした声を出した。
「鬼ヶ崎先輩が可愛らしいということも、強引な『後輩』が好きだということも、覚えておいてやる」
囁き、口付けようとして…流石に阻まれる。
「…鬼ヶ崎」
「…俺の後輩は、もっと素直で可愛いと思っていたんだが?」
「残念だな、存外素直でも可愛くもなくて」
くすり、と笑ってやれば、ザクロは抱きしめられていた腕を解かれ、布団から追い出された。
「…おい」 
「…腹が減った。お前さんの先輩は、おにぎりを所望する」
声を荒げようとしたザクロにカイコクが言う。
「鬼ヶ崎?」
「5分。それ以上は待たねぇ。…行ってくれるよな」
ザクロくん。
ゆわりと微笑まれるそれは確かにザクロが好きな表情で。
「…褒美は」
「出来次第」
「…わかった」
その言葉に、ザクロは立ち上がって部屋を出た。
思ったより冷たい風が肌に纏う。
我儘で可愛い…まるで子猫のような先輩が待ちわびている、とザクロは食堂へと足を速めたのだった。

name
email
url
comment