小さな嫉妬をする君が可愛いお年頃!(ザクカイ)

「お待ちください皆様!何故私が一人廊下で就寝せねばならないのでしょうか!」
わざとらしい、芝居がかった口調で言うのはパカである。
「「変態だからに決まってる」」
それに、嫌な表情、言い方、どれを取っても全て完全に一致した返事をしたのはカリンとアンヤだ。
仲良しさんですね、と無邪気にアカツキが言った。
今回の発端は、エンジントラブルでゲノムタワーに帰れなくなり、この建物に泊まることになった、という、よくあるそれだ。
狭い部屋で全員寝る場所を決めた直後、パカが自分も一緒に寝たいと言い出したのである。
満場一致で却下が出るのも当然と言えた。
「まあ…君の普段の行い、というものを考慮するにこの決断は当然と言って然るべきだと思うぜ?」
「路々森様!」
「問答無用で締め出しても良かったんだが?きちんと話し合いをした結果だ、諦めろ」
「忍霧様まで!」
ユズとザクロのそれにパカがぶりっ子ポーズを取る。
そういうトコ、と全員が思った。
「俺は、パカさんが一人で寝るの寂しいだろうって言ったんですけどね?」
「…なんと、入出様…!」
「でもパカさんと一緒に寝たらパン太郎が泣くってアンヤくんが言うので」
「入出様?!」
にっこりと言うアカツキにパカが素っ頓狂な声を上げる。
アンヤがふい、とそっぽを向いた。
「わっ、私も、エンジン直すの頑張ってくれてましたし、良いかなって、思うんですけど!」
「…流石は伊奈葉様…!」
「でっ、でも逢河さんがソファを貸してあげたら良いんじゃないかって!」
「伊奈葉様…?!」
「ソファ…廊下出すの……がんばる…」
ヒミコのそれに大袈裟なリアクションをするパカ。
そんな彼にグッと指を立てるのはマキノだ。
「私だけ除け者なんて寂しいじゃありませんか!!」
「…。…なら、俺と忍霧の間に来るかい?」
不服を申し立てるパカに、にっこりと笑顔を見せたのはカイコクである。
「?!おい、鬼ヶ崎?!」
「意外と大胆だにゃあ、カイさん」
「正気か、鬼ヤロー!」
それぞれ違った反応を見せる中、パカが「嫌でございます」と言った。
「なんでぇ、俺じゃあ不満かい?」
くす、と笑い、両手を広げるカイコクにパカは「鬼ヶ崎様が可憐な女性であれば熟考の余地はありましたが」と答える。
そうして。
「…私の寝首でも掻くおつもりでしたか、鬼ヶ崎様」
静かな声でそう告げた。
「…。…なんでぇ、バレてやがったか」
「貴方様も懲りませんねぇ」
肩を竦め、腕を下ろすカイコクに飄々とパカが言う。
「私を籠絡したいなら伊奈葉様の様に可愛らしくなってから出直すべきかと。…まあ、頂かれたいならいつでもお待ちしておりますよ」
「アンタのそういうトコよ、この変態!革ジャンにされたいの?!」
カイコクの手を取るパカにカリンがはたき落とし、一喝した。
「カイさんも、あんまり煽らない方がいいぜぇ?いつか痛い目を見る」
「そいつァ勘弁願いてぇな」
ユズのそれにカイコクが可愛らしく笑う。 
…と。
「?!忍霧?!おい、なあ、待てって!」
パシっとカイコクの手を取り、歩き出したのはザクロだ。
カイコクの静止も聞かず部屋を出る。
廊下を進み、突き当りのトイレに引っ張りこんだザクロは壁にカイコクを押し付けギロリと睨んだ。
「…どういうつもりだ」
「…。…言ったはずだぜ?あいつの化けの皮が剥がせるんじゃないかって…」
「それだけじゃないだろう!」
嫌そうにするカイコクに声を荒げれば、彼は綺麗な目を丸くする。
「…。そんなに俺の隣は不満か?女子の隣にならなかったのはそんなに嫌だったのか」
「…そりゃあ、お前さんの方だろう……」
詰問すれば、追い詰められたカイコクが小さな声で告白するから、今度はザクロが目を丸くする番だった。
「いや、俺は女性は苦手だと…。…あ」
そこまで言ってザクロは思い出す。
先程ユズによって無理矢理カリンやヒミコの間にされた事を。
その時のカイコクは心底不服そうだった事を。
羨ましいという感情からかと思えばどうやらそれは違ったらしい。
「まさか、貴様…嫉妬、か…?」
「ちがっ!そうじゃねぇ!」
恐る恐る聞けばカイコクはぶんぶんと首を振った。
こんなに顔を真っ赤にさせて、何を根拠に違うというのだろう。
「あれは不可抗力だ。…すまない、鬼ヶ崎」
「…満更でもねぇくせに」
「そんなわけあるか。…俺はお前の隣が良い」
「…。…寝言が五月蝿えんじゃなかったかい?」
「言葉の綾だ。…そう拗ねるな」
小さく頬を膨らせる年上の恋人にくすくすと笑って軽く口づけをした。
本当に可愛らしいと思う。
思う、が、嫉妬でパカに擦り寄るなんて危険な真似はしないでほしいと嘆息した。
ぎゅっとパカに取られた方の手を握る。
「?忍霧?」
「…消毒。次はないからな」
首を傾げるカイコクに言えば、黒曜石が落ちそうなほど見開いたそれがふにゃりと嬉しそうに崩れた。
「お前は、俺の隣だ。背後も寝顔も俺が護る。わかったな、鬼ヶ崎」
「…そりゃあ…頼もしいねぇ?」
くすくすと可愛らしく笑ってカイコクを引き寄せる。
マスクを外し…この可愛らしい恋人にそっと口づけを、した。

「だーから心配しなくていいっつったろ?大体、バレバレなんだよアイツら」
「…ザクロくんと…カイコッくん……仲良し…みんな知ってる…」
「言っちゃ駄目ですよ、アンヤくん、マキノさん。あれでもお二人ともバレてないつもりなんですから」
(仲良いのは素晴らしいけど巻き込まれた方は溜まったもんじゃないから、仕返しに恋バナアゲインのネタにするくらいは許されますよね、なんて!)

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