エイプリルエイプリル!(ザクカイ)

ザクロは今日何度目かの溜息を吐き出す。
目の前にいるカイコクがびくっと肩を震わせた。
さてなぜこの様な状況下にいるのか…事の次第は今から1時間ほど前だった。
「大変な事になった!」とユズがカイコクを引き摺ってザクロの前にやってきたのだ。
どうしたのかと問えば、なんと彼が【根底にある思いとは逆の事を自分の意志に関係なく喋ってしまう薬】を飲んでしまったというではないか。
何故そんなものを、と思うがユズ曰く「ちょっとした手違い」らしい。
「午前中で効果は切れるから、あと頼むぜ!」
「おいこら待て!」
さっさと逃げるユズにザクロは声を荒げるが、追いかけることが出来なかったのはカイコクがぐんっと引っ張ったからだ。
「…っ?!鬼ヶ崎?!」
「…す、き…でぇ」
倒れ込みそうになって慌てて後ろを向けば小さな声でカイコクがそう言う。
その言葉に少なからずショックを受けたザクロは、それでも「…そうか」とだけ答えた。
特別な感情はないだろうな、とは思っていたが「好きの反対」、つまり「嫌い」と言われればそれはそれで傷付く。
「…。…別に無理に俺の側にいる必要はないと思うが…」
「…好き、でぇ」
「…なあ」
「…っ!…好き、でぇ!」
同じ言葉しか繰り返さないカイコクに、おかしいな、と後ろを向こうとした。
だが、彼がそれを許さない。
「…俺だって傷つくんだが」
はあ、と息を吐けば小さく震え、カイコクがそっと離れた。
それから約1時間、無言のままザクロとカイコクは対峙している。
どうすべきかと思ったところで最初に口を開いたのはカイコクだった。
「…好き、でぇ」
その言葉に、またか、と暗い気持ちになりかけたところで、彼が言葉を続ける。
「名前…呼んでくんなぁ?」
呼べ、と言うことは呼ぶなということだろうか。
しかしそれも癪で、「鬼ヶ崎」と呼んでやれば小さく首を振った。
やはり呼んでほしくないのかとも思ったが、彼は「名前」と言ったのである。
「…。…カイコク」
小さく、絞り出すように言えば、何故だか彼はホッとしたように笑んだ。
不思議な表情のカイコクに疑問符を浮かべたが、ふと自室の時計が目に入る。
午前中と言われる時間はとうに過ぎていた。
…と、いうことは?
「…すまねぇ、嘘…なんだ」
「…は?」
小さな声でカイコクが言う。
良く良く聞けば、彼に飲まされた薬の効能は「嘘」だったというのだ。
日付を確認すれば今日はエイプリルフール。
なるほどそれなら合点がいく。
「それで、なんの薬なんだ?」
「…り…」
「は?」
きょとんとするザクロに、だから!とカイコクは大きな声を出した。
「【自分の気持ちに正直になる薬】だって言ったんでぇ!!」
「…へ??」
ぽかんとするザクロに彼が顔をそらす。
つまり、好きだと彼が言ったのは本当で。
「…正直になったからには……受け止められる覚悟はあるんだな?」
とさりとカイコクを押し倒す。
「ま、まて、待ってくんな、おしぎ…!」
「俺も貴様が好きだ…鬼ヶ崎…いや」
カイコク。
慌てる彼に低く囁いてそっとキスを、した。


「どうしよう、カリリン、ひーみん。嘘って言いづらくなった」
そんな二人を見つめる少女が3人。
…そう、実はカイコクには薬を【飲ませていなかった】のである。
珍しく動揺するユズにカリンが「知りませんよ」と呆れながらも一蹴した。
「自分で蒔いた種でしょ。自分でなんとかしてください?」
「そんな!…ひーみん!カリリンがぁ!」
相変わらずな二人にヒミコは苦笑しつつ、ふと首を傾げる。
ユズが作った薬は嘘だった。
ならカイコクのこの言動は?
(そもそもどこから嘘だったんでしょう…?)
ヒミコのそれは誰に聞かれることもなく、疑問として消えた。

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