ニセモノ アイ 溺レル(ミミクリーザクロ×カイコク)

ジャラジャラと喧しい音がする。
伸ばされる手に、パカはやれやれと溜息を吐き出した。
…事の起こりは数時間ほど前。
ルールを破った彼、カイコクを再び捕まえ、実験室に押し込んだのである。
前回、痺れ薬では何ともなかった彼に筋弛緩剤を飲ませ、無理矢理に叩き起こした。
拉致した過程を説明し、パカはゆったりと言う。
「罪には罰を。そう思いませんか、鬼ヶ崎様」
「…ふざけ…っ!」
それに対してカイコクは案の定声を荒げた。
ギリッと彼が睨む。
何処までもプライドが高い人だと思った。
…だからこそ【彼】に目を付けられるのに。
哀れな人だと思いながらパカは扉を開ける。
「…え?」
「貴殿には絶望を味わっていただきたいと思いましてね」
小さく声を漏らすカイコクにパカは告げた。
その声は聞こえているのかいないのか。
ゾッとした声が響く。
「…おし、ぎり?」
「…鬼ヶ崎」
部屋に入ってきたザクロが目を細めた。
嘘でェ、と呟く声。
「…お前さん、忍霧に…何を」
「残念ながらこちらは忍霧様ではございません」
「…え……?」
パカのそれにカイコクが目を見開いた。
「ミミクリー・マンイーターの改良種とでも言いましょうか。…あまり知能が高くないのですよ」
そう告げて、小さな鈴を鳴らす。
ゆっくり近づいたミミクリーザクロはカイコクを抱き締め。
「愛している」
そう、囁いた。
途端にカイコクの表情が歪む。
彼が、ザクロを想っているのは知っていた。
それ故にあまり踏み込もうとしていないのも。
だからこそ今回はそれを利用した。
「…やめて、くんな……。忍霧、は…そんなこと言わねぇ…っ!」
「…鬼ヶ崎」
嫌々とカイコクが首を振る。
絞り出すような声は筋弛緩剤を使われているからか、それとも。
珍しい表情をするカイコクに、現実は無情だった。
「?!!んぐっ、がっ…!!」
離れたミミクリーザクロが性器を取り出し、カイコクの口に突っ込んだのである。
突然のことに目を白黒させながらえづいた彼の頭を掴み、ミミクリーザクロは無理矢理に前後に動かした。
「おごっ、ぁっ、や…!あぐっ、ひっ…ぐ…あがっ…!!」
汚い声が上がる。
喉を何度も突かれ、カイコクは本能的な恐怖に飲まれているようだった。
かみ切ることだって彼なら考えるだろうにそれをしないのが証拠だ。
「げほっ、ごほっ…!はーっ…はーっ…はー…っ」
数分ほどそうしていただろうか、ずるりと引き抜いた途端、カイコクは激しく咳き込む。
ガタガタと震える彼を、ミミクリーザクロは乱暴にうつ伏せにさせた。
…そうして。
「…っ?!いや、だ…やめろ!!!」
暴れるカイコクの願いも虚しく、ミミクリーザクロの性器が濡らしてもいない彼のアナルに捩じ込まれる。
気遣いなんて知らない、植物たるそれ。
「〜っ!!ぅあっ、あぁっ、いぎ…っ!!」
「鬼ヶ崎、愛している」
「っ!…や、めろ……いや、だ…ァ、あぁあっ!!!」
機械的な愛の言葉にカイコクは悲痛の声を漏らす。
ぽたり、と鮮血が流れた。
息吐く間も与えず、ミミクリーザクロはガツガツと律動を開始する。
愛している、と無感情に囁いて。
「ふぁっ!…やだ、ぃやだ…っ!な、んで…!」
シーツに顔を押し付けながらカイコクが啼く。
快楽も何もない、ただただ痛みを植え付けられるセックス。
想い人から、無感情に愛を囁かれ続けるカイコクの苦痛は如何程だろう。
「…助けて、差し上げましょうか?」
パカはぼんやりするカイコクに手を伸ばした。
ふざけるな、とそれが打ち払われる。
この状況を作ったのはそもそもパカじゃないか、と。
「…っ!俺ァ…!絶対に…屈しねェ…!これ、は忍霧なんかじゃ…!…だ、からぁ…!」
「…残念ですねえ」
パカはその返答に溜息を吐き、小さく鈴を鳴らす。
「?!…ぁ…あ……!」
「…鬼ヶ崎」
緩く首を振るカイコクに、ミミクリーザクロは小さく笑みを見せ…触手を、伸ばした。
無数の触手が、カイコクを襲う。
「ひぎっ、やめ…!ぃぎゃぁアアアッ!!!あぐっ、ぅんんぅ!んぶ、ひぎゅ…っ!」
穴という孔を触手に埋め込まれ、彼の目は絶望に染まった。
ポロポロと涙が零れ落ちる。
それは…苦しさからか、痛みからか。
はたまた別の何かか…パカには分からなかった。
小さく、本当に小さく、ごめんなさい、と彼が呟くのは誰に向けてなのか。
「鬼ヶ崎、愛している」
ミミクリーザクロが囁く。
ニセモノの愛を、ニセモノの【彼】が。
快楽は与えないのに愛の言葉は与えられる。
これほどの地獄があるだろうか。
伸ばされた白い指が震え、絡めとられる。
逃がさない、というように。
…傷ついたカイコクは…確かに『綺麗』だと…思った。

これは、沈むべきアイに溺れた…哀れな黒猫の、始まりのお話。(終)

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