リナリア・この恋に気付いて(マキカイ)
窓から花が見える。
…カイコッくんにも、見えているのかな。
ぼんやりとそんな事を考えつつ…僕はふらりと部屋の外に出た。
いつものようにふらふらと彷徨っていれば同じように廊下を歩く、人影を見つける。
「っ!」
後ろから抱き着こうとした僕に、カイコッくんは勢い良く振り返った。
…そういえば…、後ろからぎゅってされるの…苦手、なんだっけ。
「…逢河?」
そのまま正面から抱きしめる事になってしまったけど…カイコッくんは驚いた声を出しただけだった。
…後ろはダメだけど、前からは良いのかな。
「…。…どうしたんでェ。珍しいじゃねぇか?」
くすくすとカイコッくんが笑う。
その笑みは…僕が恋を『諦めた』その人に何だか似ている気が、した。
「話、聞いてやるから…少し離れてくんな?…ここじゃちょいと目立つ」
苦笑するカイコッくんにこくんと頷いて離れる。
ほっとした表情を浮かべつつカイコッくんはそれで?と首を傾げた。
「…リナリア」
「うん?」
単語だけの僕のそれにも、カイコッくんは急かしたりしない。
…好きだな、と、思った。
「僕の部屋の窓…から、リナリアが、見える」
「…。…どんな花なんでェ」
「…ちょっと、金魚に似てる」
「へえ、そりゃあ見てみたいねぇ?」
綺麗な笑みを、カイコッくんは浮かべる。
社交辞令かと思えば、黙っている僕にほんの少し首を傾げた。
「逢河?」
「…?」
「俺ァ…そういうこと、だと思ったんだがねェ」
違ったかい?と笑むカイコッくんの耳が赤い。
可愛いな、と思った。
「…部屋、来てくれる…の?」
「逢河がお誘いしてくれんなら…吝かじゃねぇが?」
にこ、と笑うカイコッくんの手を握る。
「…来て」
「おお」
口数が少ない僕にも、カイコッくんは優しかった。
だから、僕は諦めていた恋をする。
好きだよ、とぎゅっと手を握った。
逢河?と紡ぐ、その声が好き。
不思議そうな黒い瞳が好き。
さらさらと揺れる黒い髪も、握られたまま振り解こうともしないその手が好き。
カイコッくんと過ごす…穏やかな時間が…僕は、好き。
僕は…やっぱり恋を諦めきれなかった。
僕とは違う、強いカイコッくん。
時々、ほんの少しだけ弱さも見せるカイコッくん。
「…。逢河は意外とスキンシップ過多、だよなァ…」
「…嫌?」
「そうじゃねェよ」
僕のそれにカイコッくんは笑って握り返してきた。
きっとカイコッくんは…僕の想いを知らない。
そんなものは必要のない人だから。
「俺ァそういうのは苦手なんだが…。…絆されてるって感じ、だな」
「…?」
くすくすと笑うカイコッくん。
首を傾げる僕にもただ笑うだけだった。
まるで、揺れる姫金魚草みたいだ、なんて。
この思いを何と呼ぶかは僕は知らない。
でも、それでも。
これを恋と呼んで許されるなら。
ぎゅ、と強くその手を握り返す。
繋いだ手から…その思いが伝わればいいなと…僕は…思った。
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