イースターってご存じですか?できれば一緒にやってみませんか?

「なあ、鬼ヶ崎」
「なんでェ、忍霧」
「イースターを知っているか?」
自室の、ザクロのベッド上にいるカイコクに話しかければ、きょとりとした顔をする。
「…。…なんで急に」
「いいから」
流石に唐突過ぎたかと思ったが押してみれば彼はほんの少し上を向いた。
確か、と言葉を紡ぐ。
「…寒い冬が終わり、キリストの復活祭とともに春の到来を祝う日…だったか?」
「なら、エッグハントは?」
それに正解は言わず質問を重ねる。
不思議そうな顔をするがカイコクは不満は言わなかった。
普段は適当な割に、そういうところは真面目なのだ、彼は。
「…卵を探すやつだろ?模様のあるやつ。イースターエッグ…だったかねェ……一説にゃうさぎが隠したとか言われてるよな」
「そうだ。子どもをたくさん産むうさぎは、豊穣や繁栄の象徴とされている。そのうさぎがたまごを隠した事からイースターバニーとも呼ばれているな」
「…んで?物知りの忍霧クンは何が言いたいんでェ?」
ザクロのそれに、カイコクがにこりと笑う。
流石に隠しきれるものではないか、とザクロは溜息を吐き出した。
「今、逆バニーというのが流行っているらしい」
「…あ?」
唐突に話し出したそれに彼は綺麗な瞳を訝しげに細める。
逆バニー。
バニーガール衣装を敢えて逆転させたもの。
つまりは背中の代わりに胸の辺りがぱっくりと空いた衣装だ。
「衣装も取り寄せた。奇しくも今日はイースターだ」
そう言っただけで嫌な予感を感じ取ったのだろうカイコクの手をぎゅっと握る。
「着てくれないだろうか!」
「断る!!」
食い気味も食い気味、普段は荒らげない声で彼がきっぱりと言った。
ザクロの手を払い、むぅ、とした顔をする。
「お前さんなぁ、どんな衣装か知らないで言ってんだろう」
「……いや…」
呆れた表情のカイコクが、はぁ、と息を吐き出した。
「バニーガールだって見たこたぁねぇくせに逆バニーなんて見ちまったら…」
「…見たら、なんだ?」
とさ、とベッドに押し倒せば彼は綺麗な瞳を大きく見開く。
部屋に来た時点でこうなるとそろそろ理解しても良いのに、とザクロは先程受け取ったばかりの袋を傾けた。
「…え」
中身を認めたのだろうカイコクが固まる。
彼の目の前に落ちたのはよくあるバニーガール衣装を反転させたそれと、うさ耳カチューシャ、そしてアナルプラグ付きのうさぎのしっぽ。
だが、カイコクが顔を引きつらせる理由はそれだけではなかった。
「先程言ったな?イースターバニーがイースターエッグを隠す、と」
「…いや、あの、お前さん、それ…」
じゃらりと目の前で振ってやったそれは…大量のローターである。
「本物は色々大変だと聞いたものでな」
「…そりゃあ、配慮どーも。…俺的にはイースターをやらないって選択肢が欲しかったんだがねぇ??」
「せっかくのイースターなのに、か?」
笑みを見せる彼にそう言えば、なんとも言えない複雑そうな顔をした。
「意外とお前さん、行事好きだよな」
「…そうだろうか」
思いもよらぬことを言われ、ザクロはふむ、と腕を組む。
確かに行事の度に迫っているような気はしないでもないけれど。
「イースターにはうさぎが己の躰に隠した玉子を探すのが決まりだ。でないと春が訪れない」
少し前に聞いた知識を披露すれば、カイコクが頭を抱える。
「…。…誰でぇ、忍霧にんなこと教えたのは…」
「入出と路々森だが」
さらりと言えば彼が説得するように肩を掴んできた。
「ったく…。…なあ、忍霧。あの二人だぞ?騙されてるっつー可能性は…」
「まあ、8割そうだろうな」
カイコクの言わんともするそれにあっさりと肯定する。
意外と悪いことをザクロに吹き込む二人には慣れたもので、嘘かどうかの違いくらいは流石に分かるようになった。
なおも言い募ろうとするカイコクに、ザクロはマスクを外す。
「…なら」
「しかし、騙されていると【知っていて】尚挑戦する、というのも一興だと思うが」
つまりは逆バニーを着たカイコクとイースタープレイがしたいと言外に言えば、引き攣った表情をした彼が息を吐き出した。
「…。…ったく…お前さんのむっつりスケベって設定はどこに行ったんでェ…!」
「設定言うな。…それで?可愛い恋人の頼みは聞いてはくれないのか?」
首を傾げれば、カイコクがこちらも負けじとにっこり笑う。
「その、可愛い恋人に付き合ってちゃあ身が保たねぇんだが?」
「それは大丈夫だろう」
「はぁ?」
根拠のないそれに彼が眉を顰めた。
そんなカイコクに入っていた黒いうさ耳カチューシャを被せてやる。
嫌な予感、と後退りする彼を追い詰め、口付けた。
「なんせ貴様は、うさぎ、なのだから」

黒い、哀れなうさぎさんが隠すことを強要されたカラフルな【たまご】の行方は…春の訪れだけが、知っている。

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