こどもの日というのは子どもになる日ではないんですよ?(ザクカイ)

「鬼ヶ崎!!!」
「…なんでぇ、朝っぱらから……」
だぁん!と彼の部屋の扉を開き、部屋の主の名を呼ぶ。
迷惑そうに枕を抱きしめるカイコクに近づき、顎をすくい上げた。
「失礼する」
「…なに…んんぅ?!!」
液体を口に含み、彼に口付ける。
途端、目を見開き逃げようと藻掻いた。
「…ん、ぐ、んんーっ!!」
頭を押さえ込み、口に含んだそれをカイコクに移して飲ませていく。
最初こそバシバシとザクロの背を叩いていたが何をしても離れない様子に諦めたのだろう、こくりとその喉が音を立てた。
「…は、ぁ……」
「…あんなに力いっぱい叩く事は無いだろう」
全部飲んだのを確認し、ザクロは離れる。
荒い息のカイコクに、文句を言えば彼はギっと睨みつけてきた。
「お前さんが!いきなり…っ!ぅえ?!!」
珍しく怒りの感情を見せる彼が驚いた声を上げる。
ぽふん、という間抜けな音と共に吹き出した煙の中にいたのは…子どもになったカイコクであった。
言うのを忘れていた、とザクロは小さな手を握る。
「鬼ヶ崎、子どもの姿になってはくれないだろうか?!」

それから数十分後、不機嫌ながらもなんとか話をしてくれるようになったカイコクがじろりとこちらを見る。
「…で?なにかいいてぇことは?」
「…すまなかった」
ザクロの半分ほどに縮んでしまった彼に、ザクロは何度めかの謝罪をした。
「おまえさんは、ことばがたりないんでぇ!」
「だから、すまなかった、と……」
頬を膨らす彼は可愛いしかないが、それを言えばカイコクはこの部屋に引き篭もって出てこなくなってしまう。
それだけは避けたかった。
「…それで?なんだってこんなことを」
「今日は子どもの日だろう」
「あぁ、そういやぁそうだな」
ザクロのそれにカイコクは小さく上を向く。
ゲームをやっていると忘れがちだが、今日は子どもの日だ。
高校生にもなって、子どもの日もあったものではないと思うが…ザクロはあからさまに視線を逸らす。
「…路々森がな、子どもの姿になる薬を作ってみたというから…つい……」
「…。…ろろさん……」
ザクロのそれにカイコクはひくっと表情を引きつらせた。
「…けど、そのようすじゃあじょうちゃんやいなばちゃんもいたんだろう?なんでだれもとめなかったんでぇ」
ムスッとした顔を見せるカイコクに、それが…と重い口を開く。
「俺達が…その、なかげの幼稚園の時の貴様が可愛かったという話をした所為で…伊奈葉が、見てみたいと……」
「……」
ふわぁ、と笑ったヒミコのそれが決定打となり、ザクロが薬を飲ます役目を担ってしまったのだ、と言えばカイコクは嫌そうな顔をより深くした。
あの時の彼はもう少し可愛らしかったが…精神は大人のままらしい。
少し残念に思うが、膨れ面を晒すカイコクは普段よりも可愛かった。
「…なぁ、鬼ヶ崎」
「…なんでぇ、おしぎり」
ブスくれた表情の彼に煮干しを差し出す。
訝りながらもカイコクは手を伸ばした。
それをひょいと取り上げる。
「…っ!おい!」
「ほら」
声を荒らげる彼にまた煮干しを差し出した。
見上げるカイコクが新鮮で、少し意地悪をしたくなったのである。
…と。
「…ザクロ、にいちゃん」
きゅ、と服を握りながらカイコクが見上げてきた。
思わず固まり、ぽろっと煮干しを落とす。
それを器用にキャッチし、彼は満足そうに口に入れてみせた。
「鬼ヶ崎、今のもう一度!」
「いーやーでぇ」
「そこを何とか!!」
肩を掴むザクロにカイコクはつん、とそっぽを向く。
ギャーギャーと騒ぐ彼らのそれは…第三者が来るまで続いたのであった。

(ところで、子どもの日は子どもの姿になる日ではないのはないんだが、それに対してのツッコミは…しないのが野暮ってものだよ!)

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