RPGシェイプの海(ザクカイ←マキ)

「本日こどもの日故、スペシャルゲームをご用意いたしました!!」
そう、パカが言ったのをぼんやりと思い出す。
…それから、確か。
「…ぅ……」
頭を押さえ起き上がったマキノがいたのは空飛ぶ船の上だった。
「…?」
夢、だろうか。
思考を巡らせるがずきりと頭が痛み、これは夢ではないと思い知る。
なら、他の可能性は。
…と。
「お、ようやっとお目覚めかい?」
「…カイコッくん…?」
ひょこりと顔を出した彼の…ポニーテールがふわりと揺れた。
…ポニーテール。
彼は、綺麗な黒髪をしているが、短髪だった…気がするのに。
「忍霧ぃ、逢河が目ェ覚ましたぜ!」
「何?!…マキノくん、無事か!」
カイコクのそれにバタバタと足音を立ててやってきたのはザクロだ。
普段に増して衣装が見たこともない奇っ怪なものになっている。
サバイバルゲームで着るようなやつだな、と思った。
こくんと頷くと、「そうか、良かった!」とザクロはホッとした顔を見せる。
「んで?ここ何処か分かったかい」
「恐らくこの辺りだと思うのだが…」
地図を見ながら二人が何やら作戦を立て始めた。
首を傾げていれば、ザクロがあ、と声を上げる。
「マキノくんは起きたばかりだったな」
「あー…それもそうか」
二人は顔を見合わせ、口々に説明してくれた。
ここはパカが用意した空想世界。
数年前に流行った【フライハイトクラウディア】というゲーム内らしく、出てくる敵が一致しているのだという。
ただ、主人公はおらず、完全にモブ要員のようだった。
「主人公もその仲間もいないよな」
「ああ。その辺は自分の力で頑張れ、ということだろう」
あっさりとそういう二人にマキノはまた小さく首を傾げる。
主人公がいないのにどうやってストーリーを進めるのだろうか。
そう思っていれば、カイコクから指令書なるものを渡された。
「敵を倒せ。今回唯一のルールなんだが…いくら倒してもクリアになりゃしねぇ」
「全員が敵を倒さなくてはいけないのかもしれない。…そんなことをパカが言っていた気がする」
ブスくれるカイコクにザクロがそう言う。
そういえば、とマキノは上を向いた。
「…RPGを…楽しむ……」
パカが言っていたそれを思い出し、マキノは言う。
『子どもは皆RPGが好きなものです。画して!本日のゲームは生き残れ!RPG!!醍醐味でもある戦闘をとくとお楽しみ下さい。じゃんじゃん敵を倒してボスに立ち向かい、経験値を会得してくださいませ』
楽しそうに言うパカは、何やら物騒なことを言っていた。
それが本当ならばボスを倒さなければならない。
だが、主人公はいないのだからボスをどう倒せば良いのか分からなかった。
そも、こういうのが得意なのはアンヤではないだろうか。
「…。…忍霧、今何処だって?」
「へ?…確か……」
カイコクは何かに思い当たったのだろう、再度場所を確認する…暇もなく。
激しい振動と咆哮が聞こえた。
「な、なんだ?!!」
「…くそっ、来ちまったか…」
嫌そうにカイコクが立ち上がる。
「…何が来ているんだ」
「…ザヴェル」
彼が告げたのは聞いたこともないそれだったが…何故か理解した。
…理解してしまった。
フライハイトシリーズでも随一の強さを持ち、主人公たちがレベルを限界に上げても倒せない敵。
魔獣ザヴェル。
「…どう考えたって無理だろう!たったの3人!回復役もいない!」
「んなこと言ってもだなァ!!」
ザクロの言葉にカイコクが反論する。
RPGは敵に遭遇した場合戦うか逃げるかが選べるのが定説だ。
だが、この裏ボスはそれを許してはくれないようで。
取り敢えず、と二人が武器を取る。
飛び出した彼らは敵に容赦などしなかった。
「鬼ヶ崎!」
「へいへいっと!」
ザクロが先行でライフルを撃ち、カイコクが怯んだ隙にカタナで斬る。
息ぴったりなそれに、そういえば二人は付き合っていたのだな、と思った。
二人はバレていないと思っているようだが…あのザクロが仕方ないなと小さく笑むのも、カイコクが優しく楽しそうに笑うのも互いの前だけだとマキノは知っている。
「?!!うわっ?!」
「鬼ヶ崎!」
と、敵の手がカイコクを掴んだ。
「…やめろっ、離せっ、この…っ!!」
じたじたとカイコクは暴れるが敵はびくともしない。
どうやら彼を囮にじわじわと嬲り殺す事にしたようだ。
綺麗な顔が苦しさに歪んでいく。
「鬼ヶ崎!!」
ザクロは必死に助けようとするが…彼に当たるかもしれない、とどこか躊躇しているようにも見えた。
「…ザクロくん」
「?!マキノくん?」
「…投げて」
「…えっ、はっ??」
マキノのそれにぽかんとザクロがこちらを見る。
「…僕、投げて。敵を、怯ませて…くる」
「いや、いやいやいやマキノくん!それは無茶が…!」
「…カイコッくん、助ける」
そう言えば、彼は「あー…!」と声を出し、暫く後、無茶をしないでくれ、と了承した。
それに頷き、マキノはザクロの手に乗る。
彼の咆哮と共に跳び出し、マキノは敵の腕に着地した。
「…あい…かわぁ…?」
ぼんやりと見る彼に「助けに、来たよ」と告げ、抱きしめる。
「…目、見ないで」
カイコクに囁き、敵の目を見つめた。
「…ヴォゴォオ!!」
途端、悶え苦しみ彼から手を離す。
それを待っていたようにザクロがライフルを撃ち込んだ。
「…終わりだ。よくも鬼ヶ崎を傷つけてくれたな…!!」
撃ち込まれる銃声を聞きながらマキノは船の上に降り立つ。
「…カイコッくん、大丈夫?」
「…あ、あぁ…ありがと、な…」
へにゃ、と笑うカイコクは何処か無理をしているようにも見えた。
「…無事で、良かった」
頭を撫でると少し困惑した表情をする。
それが可愛くて撫で回していれば敵を倒したザクロが近くに降り立った。
「マキノくん!鬼ヶ崎!!」
慌てて駆け寄ってくるザクロは、二人の無事を見てホッとした顔を見せる。
カイコクもまた小さく微笑むが、先ほどとは違った笑みに思えた。
ゲームは無事にクリアです、という音声の後、周りの景色が溶ける。
服も元に戻っていて、どうやらゲームは終わったらしかった。
それにしても、とマキノは思う。
ザクロに微笑む彼が、唯一自分を見てくれた際に得た胸の高まりは何だったのだろうか。
普段こちらを見ない彼が見つめた瞬間。
彼の、カイコクの目が欲しいと…そう、思った。

(ゲームを経て得たのは経験値とほんの少しの恋心。

このゲームの終わりは…さてどんなエンドになるでしょうか?)

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