嫉妬して監禁する、ヤンデレスパーク忍霧ザクロ、ユズ視点(ザクカイ)

キミはボクに似ていると、ずっと前から思っていたよ


その日ユズは、あまり使われなくなったフロアの前で佇む一人の男を見つけた。
「カイさん!」
大きく手を振りながら、ユズはその男に向かって呼びかける。
カイさん、鬼ヶ崎カイコクは確か今は病気で療養中のはずだった。
ただの風邪ではない、ウイルス性のそれで、感染ってしまっては大変だからと隔離しているのだという。
彼が完治するまでは7人で実況を、と言われてホワイトパズルの時のような暴動が起きなかったのは、その情報を持ってきたのが仲間であるザクロだったからだ。
何故私は信用してくださらないのですか!と大仰に言うゲームマスターのパカに、全員が「そういうところ」と思ったのは秘密である。
しかし何故それが本当なら彼がこんなところにいるのだろうとユズは首を傾げた。
「おぅいカイさん!こんな所で何をやっているんだい?もう病気は良くなったのかにゃ?」
歩み寄り、笑顔で声をかけたユズだが、次の瞬間、思わず固まる。
「…おねえさん…だれでぇ…?」
首を傾げ、不思議そうにユズを見るカイコクのそれに耳を疑った。
カイコクは確か大学1年だ。
タッパもあり、スペック的には仲間内でもトップクラス、ヘラヘラしているところもあるが面倒見は良い方だし、リーダーシップもある。
ユズともそれなりに仲が良かった…はずなのに。
こてりと首を傾け、黒曜石のそれをぱちくりと瞬かせるカイコクは明らかに【おかしかった】。
「…あ、の」
「…あぁ、すまない。キミが友人と似ていてね」
戸惑ったように声をかけるカイコクの声音に滲んだそれは知らない人から声をかけられた所為かそれとも。
無闇矢鱈と怯えさせることもなかろうとユズはへらりと笑ってみせる。
「間違えてしまってすまない。…ところでキミはこんな所で何をしているんだい?何か探しものかにゃ?」
今の彼に問い詰めるのは逆効果な気がして、ユズは別方向から攻めることにした。
確してそれは当たっていたようで、カイコクはぱあ、と表情を明るくさせる。
「おしぎりをしってるか?!」
「…ん?ああ、知っているよ」
その返答に、知っているのかとわくわくしたようにカイコクがユズを見、話し出した。
「!おれ、おしぎりをさがしてるんでぇ!…おきたら、へやにいなくて。ずっとまっててもかえってこねぇから…おねえさんは、その、おしぎりをみたか?」
喋っているうちに不安にでもなったのだろう。
憂慮の色を含ませながらユズを見るカイコクに、思わず小さく笑った。
精神年齢は小学生のそれに近いだろうか。
ころころと表情を変え、普段の彼よりも素直に喜怒哀楽を表現するカイコクは可愛かったけども、あまり関わらないほうが得策だろう、と思った。
すまない、とユズは笑みを向ける。
「おしぎり…知ってはいるが残念だが今日は見ていないな」
「…そ、うか…」
しゅん、とするカイコクが可愛くてユズは思わず笑ってしまった。
「ねぇ、どうだろう。人間違いしたお詫びにボクが彼を探してきてあげようか」
「…ほんとうかい…?!」
「ああ。だからね、キミは早く部屋に戻った方が良い。おしぎり、もきっとキミが部屋にいなかったら心配するだろうからね」
「…へ、やに…」
嬉しそうにユズを見ていたカイコクがその言葉に固まる。
覗きこんだ黒い瞳は確かに絶望を映し出していて。
「…どうか、した?」
「…へや、かってにでた…おしぎりにおこられる…っ!」
尋ねるユズに、どうしよう、と涙ぐむ彼は見ていて哀れだ。
やはり今のカイコクは【おかしい】。
怒られることに過剰に怯えを見せ、今にも泣きそうに表情を歪めているだなんて。
何をされたのだか、と小さく息を吐いた。
「大丈夫大丈夫、バレないように帰れば問題ないって!お姉さんが案内してあげよう。部屋はどこだい?」
「…わか…な…」
笑顔で聞くユズに、カイコクは遂にポロポロと涙を溢す。
「ありゃ。困ったねぇ…」
泣きじゃくる彼に、頭を掻き辺りを見回した。
何かヒントになればと視線を下げる。
「…キミ、その足…」
ふと彼の足元を見ればポタポタと血が滴っていて、ゾッとしたものを感じた。
血が溢れる傷口は…明らかにナイフのそれだったのである。
涙を拭ってカイコクはへにゃりと笑った。
「…ああ。…おしぎりがな、へやをでてはいけないって…わるいことするからおしおきだって」
「…そ、うか」
「…あっ、いまはそんなことしない!おしぎり、いいこにはやさしいんでぇ」
幸せそうにカイコクが微笑むから。
ユズは思わず手を引きそうになった。
…キミはそちらにいてはいけない、と。
だが。
「…鬼ヶ崎っ!!!」
それをする前に鋭い声に遮られた。
見れば、凄い勢いで彼が…ザクロがこちらに向かってくる。
「おしぎり!!」
驚きと、喜びと、若干の怯えを滲ませた彼の手が強く引かれた。
「来いっ!」
「えっ、まっ…いたい!おし、ぎりぃ…やだ、ごめ……!!」
抵抗もなく、カイコクは謝罪を繰り返しながらユズの前から姿を消す。
「…」
小さく息を吐き、床に残った血を頼りにユズは彼らを追った。
「…503…よりによってここか…」
血が途切れた部屋の前で立ち止まり、笑みを浮かべる。
ギィ、と古びた音の先は真っ暗な闇だった。
「…ゃだぁあっ!!いだぃっ!ごめ、おしぎりぃいっ!ぅええ…も、そとに、でなぃ、からぁあっ!ゆ、るじて…っ!いいこ、でいる、から、ぁ、ゃぁっぁあ!!」
カイコクの悲痛な声が響く。
ガシャガシャという機械音と錆びた鉄のような匂い。
足を進めればベッドに縛り付けられ、思わず顔を歪めてしまうくらいの大きさがある機械玩具に犯され、悲鳴と嬌声を上げるカイコクが、いた。
腰を上げさせられている割に支えることをしない足は、腱でも切られてしまったのか血が滴っている。
可哀想な程にボロボロに犯されながら、彼は懸命に謝罪を繰り返していた。
「…何の用だ、路々森」
「別に。わざと部屋を抜け出したんじゃないよ、って教えてあげようと思ってね」
こちらをちらとも見ようとしないザクロにくすくすと笑いながらユズは言う。
「…知っている、そんな事」
「なら程々にしたまえよ。…壊れてしまっても困るだろう?」
にっこりと笑うユズに、ザクロは歪んだ笑みを浮かべた。
「壊れる?何が?鬼ヶ崎の精神か?鬼ヶ崎の身体か?…よもや、俺達の愛、というつもりじゃないだろうな」
「…まさか。違うな」
ザクロの狂った言葉をユズは一蹴する。
ようやっとザクロがこちらを見た。
「…な、に…?」
「壊れるのはボクの理想郷だよ、ザッくん」
にこ、と笑い、ユズは両手を広げる。
「理想郷…?」
「うん。ここはボクの楽園なんだ。ボクの好きな人たちが幸せに暮らしている。ボクの周りで笑みを向けていてくれている。ボクはそれだけで幸せなんだよ。…だからね」
くるりと白衣を舞わせてユズは綺麗に笑んだ。
「…カイさんを泣かすなら、許さない」
「…っ」
「別にね、ザッくんがカイさんをどうしようが構わないんだ。愛だの恋だのをボクが口出しする権利もないからね。…だが…泣かすなら、許さない。カイさんを引き摺って戻す事も可能なんだぜ?」
「…。…俺が路々森の楽園を、更地に戻すことも、出来る訳だが」
ザクロが睨む。
機械に犯されたカイコクは、限界を迎えたのだろう、不健康になった肌の体がベッドに沈み込んだ。
「泣かすなら、と言ったろう?ボクはキミたちの箱庭に土足で踏み入る気はないよ。お互い、不可侵条約と行こうじゃないか」
「…分かった。約束を交わそう」
「話が早い。…ボクは、常々似ていると思っていたんだ」
頷いたザクロに笑顔を向け、ユズは踵を返す。
そう、似ていると思っていた。
初めて見たときからずっと。
意外と人を見ているだとか、目的があるんだとか。
大切なものを…どうにかしてしまいたいという歪んだ欲求だとか。
きっとカイコクは二度とあの部屋を出ることはないのだろう。
起きた彼は甘く甘く愛され、重い扉から出たら地獄が待っているのだと…知ってしまった。
なんて可哀想に、とユズは歪んだ笑みを浮かべて嘆く。
扉は閉まってしまった。
扉は開いているのに。
閉まっているように…させられてしまった。
幸せそうに笑うカイコクの瞳に光が宿ることは、もうないのだろう。
柘榴の実のように滴り落ちる赤いそれは、鬼を切り裂き、壊してしまった。
壊れたものは二度と元には戻らない。
豊穣神の娘がいない、地上のように…変わらない冬の季節のまま永遠を生き続けるのだろう。
きっと、彼らに…柘榴の実の味を覚えさせられてしまったカイコクには春は…来ないのだから。
「ユズ先輩?」
いつの間に部屋を出、エレベーターに乗ったのだろう。
声をかけてきたその人にユズは笑った。
何でもないよ、と言って作り上げた歪な楽園都市で生きることを決めた彼らに…背を向ける。
ごめんね、と呟いたそれはあまりに白々しいな、とさえ思った。
だってねぇ、そうだろう?
誰だって理想郷を壊されたくは…ないのだから!!


(歪んだ彼の独占欲と、狂った彼女の倫理観で、青年は少年へと堕ちていく

錆びついた音を喧しく立て、その扉は二度と開かぬよう…締まった)

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