アンカイ睡姦

秋はキャンプだなんて言い出したのは誰だったか。
狭いテントで雑魚寝はごめんだと火の番を買って出たカイコクはぼんやりと空を見上げる。
2つのテントからはそれぞれの寝息が聞こえていた。
…と、がさりと音がしてふとそちらを向く。
「…駆堂?」
ふらりとテントから出てきたのはアンヤであった。
眠れないのだろうか、と疑問を浮かべ、そういえば彼は睡眠障害があったと思い出す。
確か薬で睡眠を調整していた気がするのだが…と、ふらふらやってきた彼がカイコクに抱きついた。
「??おい、駆堂?どうしたんでぇ」
「…シン、兄……」
それを抱き留め、戸惑いなからも聞くカイコクに届いたのは小さく、自分にとっては他人を呼ぶ声で。
大きく目を見開き、思わず吹き出す。
どうやら寝惚けて夢を見ているらしかった。
呼び名からするに、彼の兄だろう。
「誰と間違えてやがんでぇ…」
くすくす笑い、彼にも可愛いところがあるのだなぁと思っていたカイコクを…アンヤが押し倒した。
「…はへ…?駆堂?駆堂?!」
ぽかんとしていたカイコクは、衣服を脱がされそうになりようやっと我に返る。
必死に名を呼んで押し返そうとするがびくともしなかった。
「くそっ、なんでこんな力強いんでぇ、こいつァ…!駆堂!目ェ覚ましな!くど…っ!…?!!」
引き剥がそうと躍起になるカイコクに、現実は無情で。
不意に唇が重なる。
引き結ばれるよりも前にアンヤの舌が口内に入り込んできた。
「んんぅ?!!ふぁ、…ぅ、ゃ…っ!んぐ、んーっ!!」 
びくんっ!と躰が跳ねる。
まさか年下の男、それも一番性欲が薄かろうアンヤに唇を奪われるなんて思いもしなかった。
カイコクも知らない、カイコクの弱いところを確実に突いてくるアンヤのそれに翻弄される。
「…ふはぁ…は、ぁ、ぅ…」
漸く唇が離された時にはカイコクの躰は緩みきっていた。
ぽやん、と見上げるカイコクに、アンヤは「…あちぃ…」と服を脱ぎ出した。
その隙に逃げてしまおうとカイコクは躰を反転させる。
が。
「…ひっ?!や、めろ…!!」
抜け出す前に腰を掴まれ、下着ごと衣服を脱がされる。
下だけだったのが幸いだろうかとぼんやり如何でも良いことを思った。
現実逃避でもしなければやっていられない。
まさか、己が年下の男に犯されようだなど。
「ぃぐ?!!やめ…っ!!はい、らねぇから…っ!!」
「…あ……?」
濡れてさえいないそこに性器を埋め込もうとするアンヤにカイコクは悲鳴を上げる。
躰を反転させたのは完全に失敗だった。
ろくな抵抗も出来ず、カイコクは涙目で訴える。
アンヤも不思議そうに首を傾げ、性器を押し付けるのを止めた。
ホッとしたのも束の間。
「ひぃっ?!!」
ぞわりとした感覚が背をかけた。
おもむろにアンヤが掴み、背に傾けたのはカレーを作るときに使ったオリーブオイルだ。
本当に寝ているのかと問いたくなるチョイスにカイコクは首を振る。
オイルを絡めた指がナカに挿入された。
強烈な違和感にカイコクは息を詰める。
「ぅあっ、ぁうっ、やめ…っ!!や、ぁ?!」
ずるずると引き抜かれたりまた埋め込まれたりを繰り返され、必死に悲鳴を我慢していたカイコクの背が跳ねた。
ぞくんっ!と駆け抜けるのは明らかに感じた事の無い快楽。
「ふぁ…や、だぁ…っ!しら、ねぇ…!こんな…ぃうっ!やだ、くどぅ、も、やめ…っ!」
嬌声を噛み殺し、抑えきれない涙を流してカイコクは訴える。
いつしか異物感はなくなり、ただただ甘い快楽だけがカイコクを襲っていた。
「はぁ、ぅ…ぁ、あ…?」
指が引き抜かれ、ぼんやりと後ろをふり仰ぐ。
犯そうとする彼は僅かに笑みを浮かべているように見え、カイコクは逃げようと手を伸ばした。
「~~っ!!あぁァっ!!!」
短い悲鳴が辺りに響く。
カイコクにとっての甘い地獄は、鳥が朝を伝えるまで続いたのだった。

「…ん…」
差し込む日差しにアンヤはゆっくりと意識を浮上させる。
いつもと違う景色に混乱しかけたがそういえばキャンプに来ていたのだったかと思い出した。
普段より体がスッキリしている気がする。
キャンプなど、普通は疲れそうだが…と、何か違和感を覚えた。
「…は?」
意識が覚醒し、アンヤは驚く。
隣でぐったりと寝ている半裸のカイコクと、全裸の自分を見比べ、まさか、と思った。
目をつぶるカイコクの目元が赤い。
彼の体中に散らばった歯型や、妙にスッキリした自分の体に嫌でも確信してしまった。
とりあえず皆が起きてくる前に慌てて服を身に着け、カイコクの衣服を元に戻そうとして…止まる。
どろりと流れる白濁色の液体。
嘘だろ、と小さく声が漏れた。
傍にあったブランケットを体にかけてやり、タオルを濡らしに川へ走る。
まさか、まさか。
何でよりにもよって。
「…くっそ最低じゃねぇか…」
はぁあ、と溜息を吐き出す。
確かに好意はあった。
ふは、と笑う顔が存外可愛かっただとか、眠れないアンヤに温かい梅湯を作ってくれただとか、単純な理由。
だがまさか同意もなしに抱いてしまうだなど。
「…あ」
「…。…く、どぅ?」
目を醒ましていたカイコクがぽやりとこちらを見ていた。
普段は寝起き悪いくせに、と頭を掻く。
「…鬼ヤロー…その、悪かった…な…」
「…。…いや…」
どかりと隣に座り、彼の体を拭いた。
そっとスマホの時計を見ればまだ早朝と呼べる時間で、嘆息する。
誰かに見つかる前で本当に良かった。
「…覚えて、んのかい?」
「…いや…それが、まったく覚えてなくて、よ…あー…だから…」
小さな声にアンヤは言い訳する。
まどろっこしいのは苦手だった。
「責任は取る。…その前にやり直しさせろ、鬼ヤロー」
「…は、ぇ…ん?!」
驚いたように目を見開くカイコクに、こんな顔もするのだな、と思う。
口付けたそれを離し、ぽかんと見上げる彼にアンヤは目を逸らした。
「…好きだ」
「…?!!」
「オレと付き合え…ってください」
静かな朝に響くアンヤの告白の行方は。
(さて、またいつか)

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