頭を撫でるマキカイ♀

ゆっくりと廊下を歩く。
今日はあまり眠くならなかったから…タワーの外にでも行こうかと珍しい事を思った…ところで。
「…」
どこか覚束ない足取りの彼女、を見つけた。
「…うわっ?!」
「…っ」
声をかけようとしたところで、つんのめりかける彼女に手を伸ばす。
とさ、と腕の中に引き込んだ。
「…え、あ、逢河…?」
「…大丈夫?カイコッちゃん」
腕の中から己を見上げてくるのは少し驚いた顔をする鬼ヶ崎カイコクである。
珍しく眼鏡をかけており、新鮮だな、とぼんやり思った。
「ああ。お前さんが助けてくれたからな」
「…なら、良かった」
柔らかく笑う彼女に、こちらも自然に笑みが溢れる。
「…カイコッちゃん、眼鏡……」
「ん?あー…ちょっとな、忍霧たちに勉強を」
指摘したそれに、カイコクはへにゃりと笑った。
よく見れば彼女は教科書を抱えている。
方向からして、図書館でも行っていたのだろう。
彼女は頭が良いから、色々頼られたに違いなかった。
「…カイコッちゃん」
「ん?なんでぇ…?!!」
不思議そうなカイコクの頭を撫でる。
その途端、目を丸くさせて彼女は固まってしまった。
「え、あ、逢…河…?!」
「?何?」
「いや、その…なんで、頭なんか…」
しどろもどろになるカイコクに、首を傾げる。
…何かおかしなこと、しただろうか。
「…?カイコッちゃん、頑張ってる、から…」
「?!!いや、そりゃあ買い被りすぎ…」
「……撫でられるの、いや?」
「…そうじゃ、ねぇけど」
「嫌、なら…やめる…」
小さな声でボソボソと言う彼女から離れる。
…と。
「嫌じゃねぇ!…じゃねぇけど…なんだ、その…落ち着かねぇっていうか…」
くん、と袖を引っ張り、言い訳じみたように言うカイコクに、また首を傾げた。
「…ほら、ここにゃ、俺より背が高いやつなんて限られるだろう?ゲームの外でだって頭なんか撫でられねぇし…くすぐってぇっつーかな…」
「…。…カイコッちゃん、可愛い…」
思わず言ってしまったそれに、カイコクは目をそらす。
可愛いって言うな、と言う、その目元がほんのりと赤く染まっていた。
それも可愛らしく、また彼女の頭を撫でる。
暫くそうしていたが、ふとカイコクにも用事があるのでは、と手を離した。
「…ぁ…」
小さな声を漏らす彼女に首を傾げながらも廊下を歩き出す。
どこに行こうか、なんて考えながら暫く歩いていたが…ふと背後の気配が気になった。
「…?何」
「…?!!いや、あの、別に、その」
わたわたと手を振るのは別れたはずのカイコクで。
何やら羞恥と戦っているような彼女に、ああ、と思う。
「…撫でて、ほしい?」
「…っ!!ち、ちがっ!!」
かあっと顔を赤くするカイコクが可愛らしく、思わず腕を引き、抱きしめた。
教科書が床に落ちる。
だが、気にも止めなかった。
「ふえ?!あ、逢河?!!」
「カイコッちゃん、可愛い…」
「…可愛く、ねぇから!!なぁ、離して、くんなぁ…?」
困ったように見上げる彼女に首を振る。
そのまま壁にもたれるように座り込んだ。
「あ、逢…河…?」
「…頑張った、ね…」
「?!!」
頭を撫でながら笑みを向けると、カイコクは驚いたように目を見開く。
「…僕と、ゆっくり…しよ?」
「…」
ぽかんとしたカイコクの表情がゆっくりと崩れた。
しゃあねぇなぁ、と笑う彼女は幸せそうで。
「…なら、お言葉に甘えて」
「…ん」
可愛らしく笑ったカイコクの目が次第にとろりととける。
微睡む彼女が幸せな夢を見られますように、と…頭を撫でたのだった。

いつも、一人で抱え込む貴女が…少しでも安心できますように。


「…なぁ、マキノと鬼オンナが落ちてんだけど」
「あらぁ、眠っちゃったんでしょうかね?でも、カイコクさんの寝顔、可愛いです!」
「…たしかに人前で寝顔を見せない奴にしては珍しくはあるが…一体どんな経緯で廊下で寝るに至ったんだ…??」

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